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» 2006年03月14日 15時34分 公開

海外向けシンプルケータイが担う、もう1つの市場 神尾寿の時事日想

インド、中国、ロシアといった新興諸国の市場が伸びている。現在は富裕層向けの製品が中心だが、今後は新興諸国の一般層向け市場が立ち上がるだろう。そこで必要になるのは、これまでとは違う“シンプル”な商品企画ではないか。

[神尾寿,ITmedia]

 ドイツ・ハノーバーで「CeBIT 2006」が開催された(特集ページ参照)。すでにITmediaにも複数のレポートが掲載されているし、筆者のもとにも親交のあるジャーナリストから現地の情報が届いたところだ。

 今回のCeBITでは筆者が特に注目しているのが、各国メーカーやオペレーターの「シンプルケータイ」への取り組みだ。本誌でも豪emporia社のシルバー層をターゲットにした携帯電話「emporia Life」が紹介されているが(3月13日の記事参照)、筆者の視点はややそれとは異なる。

 フランスやアイルランドなど一部の国を除いて、ほとんどの国で社会の高齢化が進行している。日本や米国を筆頭に高齢者に資産が偏る傾向があり、彼らは社会参加への意欲も盛んだ。日本の団塊世代や米国のベビーブーマーなど、“次の高齢者”たちは情報リテラシーも高い。これらの点を踏まえて、新・シルバー層のUIや端末を考えていくことは、とても大切だ。その1つの選択肢として、生産性を犠牲にしない形でのシンプル化が重要になる。

もう1つの市場は“エマージング”

 だが、シンプルケータイの可能性はそこだけではない。もっと広大で、可能性に満ちた市場がある。それがエマージング(新興諸国)市場である。代表的なのは、BRICsと呼ばれる、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国であり、他にも南アフリカなどが有望国とされている。

 これら新興市場には大きく2つのセグメントがある。

 1つは新興国の中での富裕層だ。新興国の富裕層は国民全体に占める割合は低くても、所得格差が先進諸国に比べて大きく、母数となる人口規模が大きいため、十分に魅力的な市場を形成している。例えば中国で、自動車メーカーの最初の顧客になったのが、このセグメントだ。メルセデスベンツやBMWなど欧州の高級車メーカーが積極的に進出し、日本からもトヨタ自動車がクラウンなどを持ち込んで市場獲得をしている。以前、筆者がトヨタ自動車幹部と意見交換した際にも、中国の富裕層が純正カーナビほかの豪華オプションをフル装備でクルマを購入するなど、メーカーにとって魅力的な市場であるエピソードを多く聞くことができた。

 そして、もう1つが新興国の中の一般層だ。彼らは世界経済のピラミッドでは下層に位置しており、その中には1日2ドル以下で生活する貧困層も未だ多く含まれる。そのため、逆説的ではあるが、様々なテクノロジーやグローバル企業にとって未開拓のまま残されている。だが、新興国の高い成長率と、経済の持つ平準化の力を鑑みれば、そこが市場として開拓可能なのは疑いようがない。

 例えば先述したトヨタは、新興市場の富裕層向けに高級車を売る一方で、より広い新興市場の一般層向けとして、参加の軽自動車メーカーであるダイハツとともに小型自動車「パッソ」ベースの世界戦略車を準備している。

新興市場向けシンプルケータイに必要なもの

 携帯電話市場も同様だ。現在、中国やロシアの富裕層向けに高級・高品質な携帯電話が売れており、それをもって日本の携帯電話メーカーの多くは「日本メーカーは高い技術力を高付加価値・高価格に繋げる」戦略で、新興市場も含めた海外進出を狙っている。しかし、今後おこる新興市場の「数のパワー」を手に入れるには、それだけでは片手落ちだ。新興市場の主流層でも戦える術を身につけなければならない。

 そこで重要になるのが、新興国向けのシンプルケータイである。しかし、誤解しないでほしい。筆者は単純に「機能やデバイスを削っただけの端末」を、このセグメント向けのシンプルケータイだとは考えていない。

 では、どこが“シンプル”なのか。

 1つはUIだ。例えば新興市場の中で、中国以上の成長が期待されているインドでは、連邦公用語のヒンディー語の他に17の公認語と500近い方言があり、識字率は約65%だ。このインド市場で成功する携帯電話には、識字能力の違いやハンデを超えるUIが必要になる。シンボリックなアイコンと、非接触ICやモーションセンサー、カメラなどを応用的に使い、より直感的でシンプルなUIが必要になると筆者は考えている。日本や欧米の先進国のように「文字が読める」ことを操作やサービスの前提にしていてはダメだ。

 また、機能面やサービス面でも、大胆かつシンプルな「選択と集中」が必要になるだろう。例えば、識字力に課題のある市場に、テキスト中心のメールや情報コンテンツといったサービスを投入しても、なかなか使ってもらえないかもしれない。インフラの課題を保留して考えれば、そういった地域にはむしろ、ビデオメールやテレビ電話、映像コンテンツの方が受け入れられる可能性がある。新興市場に進出するには、「何が必要で、何が必要でないか」を見極めた商品企画としてのシンプルさが重要になるだろう。

 筆者は昨年、何度か海外のメーカー関係者と意見交換したが、彼らの視線の先には「新興国市場」があったと感じている。この市場はメディアの発達が先進国に比べて遅れているため、早期に市場進出を果たしてブランド構築をした企業が、消費者の信頼を得て、その後の戦いを有利に進められる。だからこそ、彼らは新興市場のメインストリームでの成功とシェア獲得を重視しているのだろう。

 日本の携帯電話メーカーも、新興市場向けシンプルケータイの重要性と可能性をしっかりと考えるべきではないか。この分野でも出遅れると、先進国のスマートフォン市場と同様に、日本メーカーにとって将来の禍根になりかねない。日本市場の特殊性を海外で生かす道は、ハイエンド向けだけではないと思う。

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