MNPの行方を左右するものは何か神尾寿の時事日想:

» 2006年06月19日 23時35分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 6月14日、MM総研が携帯電話のMNP(番号ポータビリティ)利用意向調査の結果を発表した(6月15日の記事参照)。詳しくは別記事に譲るが、その中で特に注目なのは、「番号ポータビリティが導入されても、事業者の変更はしない」と答えた層が55.8%もいたことだろう。一方、MNPを積極的に利用すると答えた層は、全体の11%に留まっている。

 MM総研のレポートでも触れられているが、ユーザーがMNP利用に消極的な姿勢を見せる大きな要因になっているのが、契約年数に応じて割引率が拡大する「長期利用割引(経年割引)」の存在だ。また、未だに明かされない(5月17日の記事参照)事務手数料も、価格次第ではMNP利用の妨げになり得る。

誰も開けない「パンドラの箱」

 MNPの利用手数料については、KDDIが15日の株主総会の質疑応答で「ユーザーの負担を少なくすることで利用促進を図りたい」と言明している。キャリアによるMNP手数料相当分の割引は一過性のものであり、そのユーザーを獲得できる。特に挑戦者であるKDDIとソフトバンクは、「MNP手数料負担キャンペーン」を実施する可能性が高い。

 一方で、長期利用割引率では、「他キャリアの累積分を引き継ぐ」料金キャンペーンが考えられる。しかし、これはキャリアにとって「パンドラの箱」である。

 ユーザー視点でいえば、割引率を維持したまま新たなキャリアに移れることは大きなメリットである。だが、キャリアからすると、「長期利用割引率の引き継ぎ」は短期的な“料金面での攻勢”にはなるが、すぐに他社も同様のキャンペーンで反撃するのは必至だ。結果として、「長期利用者を囲い込む」という長期利用割引の意味が消失し、キャリアにとって不毛なだけの料金値下げになる。ソフトバンクも既存キャリアの土俵に上がった以上、よほどの事がないかぎり、このパンドラの箱が開かれることはないだろう。

ドコモユーザーのMNP利用率が喚起されるかが鍵

 MNPをどれだけのユーザーが利用するか。これはドコモと、挑戦者であるau、ソフトバンクの勝敗を分ける鍵になる。

 シェア56%を持つドコモは、MNP利用率が低ければシェアを守れることになる。「負けなければ勝ち」だ。最近のドコモは音楽分野への積極姿勢をアピールするなど、au対抗を強く打ち出しているが、他社より見劣りする部分を減らすことはドコモユーザーのMNP利用意欲を大きく減退させる。今後、エリアや料金面でのイメージ改善に成功し、ユーザーのMNPへの注目度が下がれば、ドコモの“逃げ切り”というシナリオも考えられる。

 一方、auとソフトバンクは、「ドコモとの大きな違い」を一般ユーザーにわかりやすく打ち出す必要がある。両社ともMNPを成長の好機と位置づけているが、重要なのはドコモユーザーのMNP利用意欲が喚起できるか、だろう。それに失敗すれば、MNPを成長のチャンスに転じられないばかりか、auとソフトバンクでお互いのシェアを奪い合う結果となる可能性もゼロではない。

 今回の調査結果を見るかぎり、ユーザーのMNP利用意欲は低く、「大山鳴動して鼠一匹」になりそうである。これはドコモにとって有利であり、auとソフトバンクにとっては不利な状況と言える。秋までにこの状況が変わるかどうかは、挑戦者であるauとソフトバンクにかかっている。今後の動向に注目である。

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