信州特急「あずさ」に新車が入ると伊豆特急「踊り子」が快適に?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2015年08月21日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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185系電車の特異な役割が終わった

 現在の踊り子は国鉄から継承した185系電車を使用しているけれど、1981年〜1982年の製造であり30年以上も使っている。とっくに替え時を迎えながら残されていた。185系からE257系への交代は、東京駅〜熱海駅間および伊豆方面へ列車で移動する人にとって朗報だ。

 185系電車は、国鉄史上ユニークな車両の1つである。料金不要の普通列車から、料金をいただく特急列車の両方に使える電車として製造されたからだ。もともと国鉄時代末期に、老朽化した急行用電車を置き換えるために企画された。しかし当時の国鉄は赤字問題で経費節減を強いられていたため「急行専用ではもったいない、通勤時間帯以外の普通列車もこれを使おう」となった。さらに国鉄は実質的な値上げを図るため、特急列車に比べて不人気な急行列車を特急列車に格上げする方針になった。

 だから185系は、普通列車としては贅沢な「2人掛けクロスシート、乗降デッキがあるため静かな客室」という仕様になった。しかしほかの特急電車と比較すると見劣りする仕様になってしまった。おおざっぱに言うと、関西で料金不要の「新快速」と同等の乗り心地と座席間隔だ。京阪神間の鉄道は競争が激しく新快速が国鉄としては良い設備だったとはいえ、関東の特急が快速と同じレベルの設備で、特急料金をいただいて良いものか。当時の国鉄もそれは気にしたようで、B特急券という安い料金体系を設定した。

 その後、国鉄は、東京〜熱海・伊豆という人気の観光地に向けて、列車の旅の魅力を高めるため、展望室付きの251系電車を新製して「スーパービュー踊り子」を運行開始。JR東日本になって以降は伊豆急の看板車両を直通させた「リゾート踊り子」、成田エクスプレス用のE259系電車を使った「マリンエクスプレス踊り子」などを誕生させた。これらは設備の良い車両だから、格上のA特急料金が適用される。

 しかし、この施策が185系の延命の要因にもなった。快適な旅を提供する役目よりも、スピードと乗り換え不要の便利さを担い、普通列車にも運用できて効率が良い電車は、後にも先にも185系だけだった。逆に言うと、この2段階施策を固持し、国鉄もJR東日本も踊り子系統の列車の全体的なサービス向上を行わなかった。185系は2002年までに全車リフォームされた。普通列車としての運行機会がほぼなくなったことから、客室設備については特急列車専用にあらためられた。しかし古さは否めない。

 E257系はグリーン座席が1両の半分ほどしかない。185系踊り子はグリーン車を2両連結している。実際の導入に当たっては、電動車両の比率の見直しや、一般車をグリーン車に改造するなどのリフォームが行われるだろう。踊り子は、伊豆方面だけではなく、東京・横浜〜小田原・熱海間の利用客も多い。E257系の導入は東海道本線の魅力向上にもなる。JR東海の「こだま」との競争も期待できそうだ。

 さて、そうなると今度は伊豆方面で活躍の場を失う185系電車の今後が気になる。国鉄の経費節約に貢献してくれた電車だけど、乗客サービスとしては見劣りする。廃車になる運命だろう。あるいは近年の傾向として、東南アジアへ売られていくかもしれない。もしかしたら、もう商社がツバをつけていたりして……。

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