ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」(1/4 ページ)

» 2015年09月07日 07時49分 公開
[川崎隆夫INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール・川崎隆夫氏:

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役

 経営コンサルタントの川崎隆夫です。私は約30年にわたり、上場企業から中小・ベンチャー企業まで、100社を超える企業の広告・マーケティング関連の企画立案、実行支援や、新規事業、経営革新等に関する戦略計画の立案、企業研修プログラムの策定や指導などに携わってきました。その経験を生かし、表面的な説明に留まらず、物事の背景にある真実が浮かび上がってくるような、実のある記事を執筆していきたいと思います。


 2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会は、9月1日に記者会見を行い、佐野研二郎氏がデザインした五輪の公式エンブレムの使用を中止し、新たなデザインを再公募すると発表しました。佐野氏については連日のように数々の「模倣疑惑」が報道されていますので、今回の判断は妥当なものだといえるでしょう。

 しかし新たなデザインを再公募するだけで、今回の「エンブレム騒動」を終わらせて良いのでしょうか?  筆者は今回の問題を、単に「ロゴマークの類似デザイン問題」として捉えるのではなく、もっと上位の概念である「CI」(コーポレートアイデンテイティ)の視点から捉えて、再度徹底的に検証する必要があると考えています。

CI(コーポレートアイデンティティ)とはなにか

 Wikipediaによると、CIとは「企業文化を構築し特性や独自性を統一されたイメージやデザイン、またわかりやすいメッセージで発信し社会と共有することで存在価値を高めていく企業戦略のひとつ」と定義されています。またCIは、企業ブランディング(コーポレートブランディング)領域における重要施策のひとつとしてもしられています。

 筆者が大会組織委員会の記者会見をテレビで視て気になったことは、大会組織委員長の説明がデザインの視覚領域や審査員に関する説明にとどまり、CI的な見地から今回のエンブレム問題を捉えた発言が皆無であったことです。

 一般企業においてロゴマークを新たな制作する作業は、通常は企業ブランディング領域のひとつであるCIに関する領域として捉えられ、企業理念やビジョン、企業戦略などを企業とクリエイターなどが共有化した上で、以下のようなプロセスを経て、ロゴマークの開発等が行われます。

【CIの実施プロセス(例)】

(1)事前調整:目的や手法の共有、プロジェクト委員会の形成

(2)視覚監査:視覚物件の現状評価・案件のリスト化

(3)業界/競合調査:デザイン動向・ポジショニング

(4)経営トップインタビュー:視覚イメージの方向感に関するヒアリング

(5)開発基準の設定:調査/討議などによる方向感のすり合わせ

(6)プレゼンテーション:デザイン開発〜プレゼンテーション

(7)展開デザインの開発:各種物件への展開デザイン・展開ルール

(8)運用基準づくり:ブランドガイドライン、チェックシステムなど

(9)発表/啓蒙施策:社内向けブランド小冊子、映像、イベントなど

<株式会社リスキーブランドのWebサイトから転載>

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