「ホテルオークラ東京」を建て替えなくてはならない本当の理由スピン経済の歩き方(1/4 ページ)

» 2015年09月08日 08時09分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 先日、「ホテルオークラ東京」(以下、オークラ東京)の本館が建て替えのために閉館した。現在の11階の建物を解体して、42階(高さ195メートル)と17階(同85メートル)の高層タワーを建造、オフィスも入る複合施設に生まれ変わるのだ。開業は、東京五輪を直前に控えた2019年春らしい。

 敷地面積(約2万6000平方メートル)の6割は庭園や緑地にして開放して「都会のオアシス」にするということだし、いろいろ賑(にぎ)やかになるのはいいんんじゃないのと思うかもしれないが、実は昨年5月に計画が発表されてから欧米を中心に「反対」の声があがっている。

 『ワシントン・ポスト』など米紙が相次いで取り壊しを惜しむ記事を掲載し、英誌『モノクル』は「セーブ・ジ・オークラ」なんて特設サイトまで立ち上げ、「日本的モダニズム建築を守ろう」と署名集めを始めたのだ。

 欧米では歴史のある建造物は「文化財」という位置付けで保存されるのが一般的だ。ホテル側も大幅改修を行いつつも往時の佇(たたず)まいの維持に務め、それを「売り」にブランド価値を高めることが多い。ちょっと古くなったからぶっ壊して、高層オフィスタワーにしましょうや、というダイナミックな方針をとるほうが、欧米では「奇異」に映るのだ。

 ニューヨークのザ・ピエール(1930年開業)、パリのホテル・ジョルジュサンク(1928年開業)、シンガポールのラッフルズホテル(1887年開業)、香港のペニンシュラ香港(1928年開業)など、世界中から観光客が訪れるクラシックホテルも全面改修を行うことはあっても、「顔」である建物自体をゼロから作り直すということはしない。それらと比べたら、1962年開業という比較的新しい「オークラ東京」をぶっ壊すってのはちょっとどうなのさと、欧米の「オークラファン」から茶々が入るのは当然だ。確かに、ハワイ好きの日本人も、モアナ・サーフライダー(1901年開業)やロイヤルハワイアン(1927年開業)を壊して、高層タワーを建てますと聞いたら反対するのではないか。

 いや、日本は地震大国だから耐震性がうんたらかんたらという話にもっていく人も多いが、1927年にできた横浜のホテルニューグランドもリノベーションを繰り返し、昨年6月には東京五輪開催で外国人観光客が大挙することを想定し、耐震性の向上などを目的とした大規模改修を行っている。壊さなくても耐震性を上げ、なおかつ快適さを向上していく方法はいくらでもある。

歴史のあるホテルオークラ東京。なぜ建て替えるのか
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