混沌から抜け出せぬEセグメント池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2015年10月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

高級は合理主義と相容れない

 しかしDセグメントとなるとそうはいかない。自動車の歴史の中で、エンジンフードの長さはクルマの豊かさの象徴と見られてきた。ノーズが長いクルマは高級な大排気量多気筒エンジンを搭載しており、短いクルマは実用一点張りの小さなエンジンを搭載している。つまりショートノーズ化はどうしても高級感を損なう。

 加えて純然たるデザインの面から見ても問題があった。Cセグメントと異なり、Dセグメントほとんどのクルマが独立したトランクを持つ3ボックススタイルだったのだが、短いノーズがトランクとどうしても釣り合わない。かといって2ボックスにするわけにもいかない。ノーズの長さとトランクの有無は同じファミリーカー用途の中で高級なDセグと安価なCセグの識別点になっていたから、Dセグのデザイン合理化はある意味自己否定でもあったのだ。

 しかも、もっと本質的な問題がある。本来豊かさとは無駄が生み出すものだ。建築で言えば、巨大な玄関のファサートがそうだ。ファサートを必要最小限のコンパクトなものにすれば、その分居間やダイニングを広くして実用性を高めることができる。合理的ではあるが、それは豊かさとは別の話である。

 だからDセグメントはCセグメントより豊かであることを表現する意味でもノーズを長くしたかった。だが、この合理的デザインを毅然と跳ね除けるにしては、Dセグメントもまた室内空間の余裕は十分とは言えなかったのである。この難しい問題を解決すべく、世界中の自動車メーカーが、プレミアム性を維持しながらどうやってショートノーズを実現するかを競い、1980年代の終わりになってようやくDセグメントはそのボディサイズに相応しい広大な室内空間を獲得したのである。

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