三江線廃止問題は、鉄道事業の「選択と集中」が引き起こした杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2015年10月23日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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 そこに今年8月、JR西日本が独自案として小浜〜京都経由案を打ち出した。京都からは東海道新幹線に乗り入れず、独自に新大阪までの線路を敷くという。このルートはとても魅力的だが、京都〜大阪間の用地買収、トンネル掘削などで膨大な費用がかかる。JR東海がリニア中央新幹線を自費で建設すると豪語したように、JR西日本も「独自で!」と言えるなら話は早いしカッコいい。しかしその費用はどうやって調達するか。

 自費でまかなおうとするなら、不採算部門のローカル線はお荷物である。借入や補助金を得るためなら、なおのこと経営の健全性を証明する必要がある。つまり不採算路線の廃止だ。投資する側に経営の健全化をアピールする段階で、閑散ローカル線は足かせになる。

 つまり、JR西日本のローカル線廃止問題で言うと、沿線自治体にとっては路線単体の存続問題である。しかし、JR西日本にとっては鉄道事業全体の選択と集中の問題だ。だから恐らく、三江線存続の方向では、自治体とJR西日本の話はかみ合わない。そして、今後、他の路線にも同じ問題が起きる。本当に鉄道を残したいなら、自治体が引き取るしか選択肢がない。

 しかし、地方自治体合同で第3セクターにするとしたら、鉄道の維持費用負担で行き詰まり、バス代行でも良いのではないか、という意見も出るだろう。また災害が起きたら、また国に頼るのか。自己負担分として億単位の費用をどうするか。その費用を使って、病院の送迎バスを補助するとか、商業地域を結ぶ巡回バスを整備するとか。これが持続的な交通整備である。JR西日本がそう提案しているということは、JR西日本にはその用意があると言うことだ。鉄道に固執して交渉を打ち切られてしまうより、JR西日本の提案に乗るべきかもしれない。

 ここから先は、自治体の公共事業の「選択と集中」の問題になる。地域の人々は「与えられたものを維持していただく」から「自分たちの交通を自分たちで守る」という現実に直面する。この現実は三江線だけではない。赤字路線の沿線すべてに通じる。危機感を持つべき沿線自治体はほかにもたくさんある。

三江線江津駅から始発列車で見た日の出。景色はとても良い。鉄道ファンとしてはなくしたくない 三江線江津駅から始発列車で見た日の出。景色はとても良い。鉄道ファンとしてはなくしたくない
多くの区間で時速30km制限となっている。落石を発見しても安全に停車するためだ。「目視で危険を察知して停車できる」は、路面電車と同じ条件である。バスやマイカーには勝てない 多くの区間で時速30km制限となっている。落石を発見しても安全に停車するためだ。「目視で危険を察知して停車できる」は、路面電車と同じ条件である。バスやマイカーには勝てない
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