三江線廃止問題は、鉄道事業の「選択と集中」が引き起こした杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2015年10月23日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

地元自治体は三江線活用に努力していたが……

 地元の線路を守る。そのために自治体は努力しただろうか。情報が伝わってこないけれど、鉄路を守るために、やるべきことはやっていた。例えば、「三江線改良利用促進期成同盟会」だ。沿線の沿線の江津市、川本町、美郷町、邑南町、安芸高田市、三次市が結成し、三江線の利用促進の取り組みを実施している。この自治体に加えて、住民代表、島根県、島根県立大学、JR西日本米子支社などが参加して「三江線活性化協議会」も結成された。

 同盟会と協議会、2つの団体が一体となって、三江線の「乗って残そう運動」を実施している。三江線利用者への補助金政策だ。具体的には、三江線の回数券を購入して申請すると、購入金額の10パーセントが補助される。三江線を利用して遠足、交流会など団体旅行を実施し、報告書を提出すると、参加者の人数に応じて2万円〜5万円が公布される。お弁当代の足しになる程度だけれど、「車窓を楽しむイベント」というだけでも受理されるようだ。出掛けるきっかけになる。さらに、地域外から三江線を利用し、宿泊または食事を伴う団体旅行にも補助金が出る。

三江線の魅力を伝える「ぶらり三江線Web」 三江線の魅力を伝える「ぶらり三江線Web」

 このほかに、各市町村が持ち回りでイベント列車を企画したり、Webサイト「ぶらり三江線WEB」で観光情報を発信している。惜しむらくは、こうした情報が、観光需要の大きな都市圏の人々に届いていない。私のような鉄道ライター、旅ライターの力不足と言えるかもしれないが、驕りでもある。個々のライター、ブロガーはそんなに影響力を持っていない。彼らをとりまとめてメディアを注目させる仕掛け人が必要だ。

 辛口の意見を述べさせてもらうと、大河の眺めが良い、紅葉が素晴らしいと言われても、似たような景色は日本中にいくらでもある。沿線人口が少なく、観光誘客に頼りたい気持ちは分かる。しかしライバルは全国の観光地だ。彼らはカネをかけて宣伝して、それこそ必死で誘客に取り組んでいる。その土俵に上がるには、もう少し強力なアイテムが必要である。例えば、木次線のトロッコ列車だったり、山口線のSLだったり。

三江線。1両のディーゼルカーが行き交う。全線の所要時間は約3時間半。列車は下り8本・上り9本。全線を通しで乗ろうとすると、上り・下りとも3便ずつしかない 三江線。1両のディーゼルカーが行き交う。全線の所要時間は約3時間半。列車は下り8本・上り9本。全線を通しで乗ろうとすると、上り・下りとも3便ずつしかない

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