「こだわり」という言葉は、もともとネガティブな言葉だったので、現在のようにプラスの意味に使われるのに違和感がある、という意見がある。
確かに「こだわる」という言葉は、本来は「些細なことに気持ちがとらわれてそのことに必要以上に気をつかう、拘泥する」という意味。だから「そんな細かいことにこだわっていないで」というように、良くない意味で使われる言葉だった。それがいつの間にか「細かなことにまでに気をつかって吟味する」という良い意味で使われるようになる。だから違和感がある、というのだ。
そのような意見に私はくみしない。そんなことはどうでもいい。言葉は時代によって変化していくべきもの。本来マイナスの意味だった「ヤバい」がプラスの意味でも使われるようになったのと同じ。それに違和感を覚えるなどとグチるのは、年寄りの繰り言だ。間違った用法でも効果があればどんどん使えばいい。
問題にしているのは、それが手垢のついた決まり文句であり「空気コピー」だからだ。
「空気コピー」とはあってもなくても同じ空気のような存在の言葉を指す。「こだわり」は現在の日本においてはまさにこの「空気コピー」だ。何の役割も果たしていない。お客さんの心を1ミリも動かさない。あってもなくても同じ。いやむしろないほうが圧倒的にいい。今の日本にはそんな言葉が多すぎる。
「こだわりの○○」というフレーズが初めて使われた時、力のある強い言葉で効果があったに違いない。本来はマイナスの意味の言葉をプラスの意味で使ったのだから(このような言葉の組み合わせにより強い化学反応が起こるということは、また次回以降の連載で詳しく語る)。それ故にこんなにも広がってしまったのだろう。
また10数年前の日本だと、何かにこだわることは、他と差別化できる要素になった。「食材にこだわっている」「健康にこだわっている」「有機栽培にこだわっている」、健康志向や自然志向が売りになった時代だ。
現在でも、中国や東南アジアなどの国であれば効果はあるかもしれない。しかし今の日本では、ファミレス・ファストフード・居酒屋などのチェーン店であっても何かしらの「こだわり」を前面に出している。少々の「こだわり」があるから食べたいなんて誰も思わない。むしろそんな言葉を平気で使っている感性が疑われる。
現在の日本では、この「こだわり」という言葉ほど、こだわりなく使われている言葉はない。もし、あなたの店や商品が本当にスゴいことをしていても、それを「こだわりの○○」というキャッチコピーで表現すれば、言葉があまりにも陳腐なので、逆にスゴさが伝わってこないだろう。
まだ「うちの店はまったくもってどこにも何ひとつこだわっていません」というほうが圧倒的に強い言葉になるくらいだ。
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