鉄道趣味系クラウドファンディング、成功の決め手は?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2015年12月11日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

銀河鉄道999ラッピングは失敗、しかし大成功

 成功例、失敗例の理由は何か。失敗例の理由を、せんえつながら私の主観で考えてみる。もちろん異論はあると思う。賛同者の数などを踏まえて参考にしてほしい。

 目標金額第1位の「ファンの力で新銀河鉄道999電車を走らせよう 〜『銀河鉄道999』現実化プロジェクト〜」は、目標金額が2999万円。申込金額は約565万円で失敗。実現にはほど遠い結果となった……と思ったら、このプロジェクトは「別の形で実現させてたい」と活動自体は継続している。このプロジェクトは私自身が懐疑的だった。西武鉄道にお知らせをいただいて説明会を拝聴したけれど、否定的な記事を書いてしまって申し訳なく思った(関連記事)

 立案者は名誉実行委員長で原作者の松本零士氏となっている。この実行委員会は地元の地域活性化のために認可申請中のNPO法人、西武鉄道沿線の地元商店会だ。協賛として西武鉄道、Makuake、新産業文化創出研究所などが参加、今後も協賛会社を増やしていくという。記者発表は後者3団体が開催した。つまり、実体は協賛社側にある。

 参加者として、懐の厳しい中からお金を出そうとすると、まず目標金額が高額すぎて成功する気がしない。クラウドファンディングは企業の大口参加をアテにできない。理由は寄付金控除の対象にならないからだ。寄付金控除を受けるためには、立案者が控除対象団体になる必要がある。つまり、この目標は個人からの集金目標である。

 金額で原作のタイトルにちなんで999を入れるあたり、シャレが効いているけれど、かえってその金額が必要か疑問が残る。そして、記者発表の一般参加者からの質問、「失敗したらどうするのか」に対して、「ほかの手段を講じてでも実現させたい」という趣旨を初めから公言した。これで取材陣は鼻白んだ。

 なにしろ大企業の西武鉄道が絡んでいる。そりゃあできるだろう。西武鉄道はアニメのラッピングトレインに積極的だし、記者発表の翌月には西東京市のマスコットキャラクターをデザインしたラッピング列車を走らせている。そうなると、「なぜ『銀河鉄道スリーナイン』だけファンから金を集めるのか」となる。

 「クラウドファンディングに成功しなくても実行する」は、さすがに夢がないから、ほとんどの媒体はこの部分を報じなかった。しかし、失敗が決まると実行委員会自ら発信している。では、このプロジェクトは失敗だったか。否。成功した。クラウドファンディングは失敗したけれど、西武鉄道、Makuake、新産業文化創出研究所の広告として大成功だった。

 同様の事例に、READYFORの「目標金額は1億円!ロンギヌスの槍を月に届けよう」がある(関連記事)。これも実現性を巡りネットの議論が沸いた。しかしこれは「エヴァンゲリオン20周年公式プロジェクト」の1つのイベントである。当初からお祭り色満載だった。失敗したら全額返金だから、参加者もシャレと分かって送金した。返金の振込手数料もREADYFORにとっては広告費用みたいなものだ。

 銀河鉄道999のほうも、ライバルのMakuakeが同じアニメカテゴリを持ち出して仕掛けた広告だと思えば納得だ。しかし後味は悪い。結果として西武鉄道の失敗、銀河鉄道999の失敗に見える。両者のイメージダウンにならないか心配だ。

銀河鉄道999と新世紀エヴァンゲリオンの案件はどちらも不成立だった 銀河鉄道999と新世紀エヴァンゲリオンの案件はどちらも不成立だった

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