スターウォーズ・ボイコット運動から見える米国の現実(ネタバレなし)世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2015年12月24日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「人種」はセンシティブな問題

 こういう騒動を聞くと、米国って一体どうなってんだ、と心配してしまう人も多いのではないだろうか。米国では、日本で一般に思われている以上に、「人種」はセンシティブな問題なのである。

 ただそんな米国にあっても、今回このボイコット騒動はちょっとひどい。もちろんこれまでもこうした人種問題を煽(あお)る集団や活動は限定的だが、存在していた。だが基本的に社会からは無視され、大して話題にされることもなかった。だが実のところ、今回のボイコット運動が話題になった背景には最近また人種問題が表立って注目されていることがあると思われる。米国で最近、何が起きているのか。

 例えば2014年から2015年にかけて、白人警官が黒人を不当に扱って死に至らしめるケースが全米各地で相次いでいる。それをニュースなどで知り憤慨した黒人が各地で「黒人の命は大切だ」とプラカードを掲げ、デモを繰り広げているのだ。例えば2015年にメリーランド州ボルチモアで、若い黒人男性が警察に拘束されて移送中に死亡したケースでは、デモは暴動に発展して250人以上が逮捕される事態になった。同様のケースは2015年だけで10件以上起きている。

 これとは別で、最近米国人の人種差別意識を煽っているのは、2016年米大統領選の共和党候補者指名争いに立候補している富豪のドナルド・トランプだ。他の候補者らと違い、寄付などをもらって選挙キャンペーンを行う必要のないトランプは、どんな団体にも人種にも気を遣うことなく放言を続けている。

 例えば、2015年6月には、メキシコ人に対して、「彼らは違法薬物を持ち込み、犯罪を持ち込んでいる。彼らはレイプ魔だ」と発言、中南米系住民から総スカンを食らった。だがそれでも懲りず、2015年11月にフランスでイスラム国(IS)によるテロが起きると、イスラム教徒が米国へ入国するのを禁止すべきだと発言。もちろん親米イスラム教国家も多いし、外交やビジネスを考えれば米国に入国させないなんてありえない話なのだが、とにかく人種差別的発言をしつこく繰り返している。

 もちろんトランプの人種を標的にした発言は、知識層からは白い目で見られている。だが一方で、そうした発言の後でも、トランプの支持率は共和党候補者の中でトップを独走し続けている。つまり、彼の人種差別的な意見に賛同している人が少なくないのである(イスラム教徒について言えば、米国内のイスラム関連施設に対する銃撃や器物破損などの嫌がらせは2015年、12月までにすでに米国の過去最高を記録しているのだが、それもうなずける)。

 もちろん、こうした話だけをもって米国人は人種差別主義者だと言うつもりはないが、米国を知る上では、そういう側面があることは知っておいたほうがいいかもしれない。

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