ベースボールの“情報漏洩事件”から見えるスポーツのサイバースパイ世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2016年01月14日 06時25分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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スポーツの世界もサイバー攻撃の危険性

 今のところ、コレアの盗んだ情報が、誰の手でどう使われたのかは明らかになっていない。コレアによるサイバー攻撃によってカージナルスが利益を得ているのかどうかも不明だ。ただメジャーリーグ機構は、カージナルスに球団としての責任を課し、制裁を与えることも検討している。

 巨大なビジネスとして競争が激化するスポーツの世界では、ライバルの動きや分析といった情報は、企業の内部情報や知的財産のように貴重なものとして扱われている。そしてカージナルスとアストロズの間にある疑惑のように、チームの間でサイバー空間のスパイ行為が秘密裏に行なわれている可能性はないとは言えない。

 メジャーリーグのコミッショナーであるロブ・マンフレッドは2015年11月、データなどのセキュリティを強化するよう球団に警告している。また著名なセキュリティ専門家のミコ・ヒッポネンは米CNNの取材に、「ハッキングによる企業へのスパイ行為は今や当たり前かもしれないが、事実、企業がそうした行為をして見つかることはほとんどない」と語り、コレアのようにバレたケースはまれで、表沙汰にならないような同様のケースは水面下で行われているだろうと指摘している。

 そしてこうした行為は、メジャー以外のスポーツで起きていても何ら不思議ではない。事実、最近では自転車レースのツール・ド・フランスで、2015年に総合優勝したクリス・フルームのトレーニングデータがハッキングされて盗み出された疑惑が取りざたされている。また、選手の移籍などで大きな資金が動くサッカーで、データが盗まれるという事件が出てきても何ら不思議ではない。というよりも、その手の事件が起きるのは時間の問題だと考えていたほうがいい。

 米IT企業が北米と欧州、中東の企業の協力で行った調査では、2015年、一般企業の80%がサイバー攻撃を受けたことを報告している。そんな時代に、スポーツ関連で同様の被害が起きていないわけがないと考えるのが自然だ。

 一般企業だけでなく、スポーツの世界もサイバー攻撃の危険性に直面している。そしてその脅威に勝ち、データを死守することがチームの成功にもつながるのである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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