ベースボールの“情報漏洩事件”から見えるスポーツのサイバースパイ世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2016年01月14日 06時25分 公開
[山田敏弘ITmedia]

どの球団も情報分析に力を入れている

2014年、ヒューストン・アストロズの極秘の内部情報が流出した

 すべては2011年に、カージナルスの幹部だったA氏が、アストロズに雇われたことから始まる。

 アストロズは選手の分析や動向、スカウト情報など球団にとって重要なデータを、「グラウンド・コントロール」と名付けたデータシステムで管理していた。実のところ、このグラウンド・コントールはA氏がカージナルスから転職する際に持ち込んだアイデアだった。カージナルスは以前より、「レッド・バード・ドッグ」という名のシステムを構築して選手やスカウト情報などのデータを蓄積・分析しており、A氏はその経験から、アストロズのオーナーにデータシステムのアイデアを売り込んだ。

 ゼロから作られたこのグラウンド・コントロールは、選手の詳細情報やスカウトにからむ戦略などありとあらゆるデータを集約し、メジャー球団の中でも非常に優秀なデータ分析ツールとしてメディアでも取りあげられるほどのシステムになった。

 ちなみにメジャーリーグのチームは独自のシステムを所有している。クリーブランド・インディアンスは「ダイアモンド・ビュー」と名付けられたシステムをもち、ボストン・レッドソックスは「カーマイン」と呼ばれるシステムを構築している。こうしたシステムにアクセスすれば、スカウトやトレード情報だけでなく、遠征先でも相手チームの動画や、選手の記録や分析情報を瞬時に手元のデバイスでチェックするのも可能になる。

 そもそもこのようなデータ・システムは、ベースボールを変えたと言われる、オークランド・アスレチックスが導入したデータ分析に端を発する(そのサクセスストーリーはブラッド・ピット主演映画『マネーボール』で描かれている)。今ではビッグデータなど、どの球団も情報分析なくしては戦略を立てられないほどである。

 コレアは、アストロズに転職したA氏がカージナルス時代に使っていたパスワードを記録していた。そして、アストロズに移ったA氏が引き続き同じ(または似た)パスワードを使っていたことから、グラウンド・コントロールへの侵入を成功させたという。そしてそこから、内部情報を盗み出したり、他の職員のアカウントを盗んだりして、2013年3月から2014年6月までの1年以上にわたって侵入を続けた。

 例えば2013年には、アストロズがスカウトする予定だった選手の情報を閲覧し、選手の成績やケガ歴、分析や評価、さらには提示するボーナスなどの情報を調べている。またそれ以外にも、他のチームのスカウト動向や、今後ドラフトする見込みのある選手の動向、外人選手の評価も盗み見た。さらにはカージナルスに対する分析もチェックした。

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