家電メーカー「アクア」の伊藤社長が業界の常識を破り続けてきたわけ「全力疾走」という病(4/4 ページ)

» 2016年02月02日 07時30分 公開
[香川誠ITmedia]
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日本製造業の再生は天命

 「今、スケルトン洗濯機の開発を進めていますが、業界で長く働くベテランの方は、『汚い洗濯槽なんて誰も見たくない』と言うでしょう。でも、吸い取ったゴミが見えるダイソンの掃除機は売れています。これだけゴミが取れたんだという実感が、人気につながっているとは思いませんか? 洗濯機だって、洗っているところが見えたら面白いと思いますよ。世界最小洗濯機のAQUA『COTON(コトン)』も、そもそも洗濯で大量の水を使う必要があるのかという発想から生まれています。わずか5ccの水で汚れを落とすこの商品は、既に20万台以上のヒットとなっています。地球規模で考えれば、水は貴重な資源。資源の乏しいアフリカなどで必要とされるはずです」

 そのほかにも、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場するロボット「R2-D2」を実寸スケールで模した移動式冷蔵庫や、冷蔵庫の扉に液晶ディスプレイを配した「AQUADIGI」(2016年春発売予定)など、斬新な商品を次々と世に送り出した。伊藤の考える基準は「自分が欲しいと思えるかどうか、ワクワクするか」だという。

家電業界の常識を一変する商品を次々と開発するアクア(撮影:2015年6月2日) 家電業界の常識を一変する商品を次々と開発するアクア(撮影:2015年6月2日)

 「これまで優秀な人たちがどれだけ頑張ってもこの会社を立て直せなかったということは、ビジネスモデルを変えるべきときが来ているということです。そこで私たちは昨年、具体的な事業戦略を発表しました。家電本体の販売だけでなく、コンテンツを提供することで収益を上げるサブスクリプション型ビジネス(家電を利用した新しいビジネスモデルの構築)を目指す。冷蔵庫や洗濯機など既存の分野でイノベーションを起こす。家電を嗜好品化する。この3つが柱です」

 伊藤が経営改革のオファーを受けたのは、単に一社の経営再建のためだけではない。先述の通り、そこには彼の言う「天命」がある。

 「この会社には旧三洋電機から引き継いだ技術者が残っています。彼らが築き上げたAQUAブランドを再生させることは、メイド・イン・ジャパンを再生することにほかなりません。社名をわざわざブランド名のアクアに変えたのも、『日本のテクノロジーはまだまだいける』ということを証明したかったからです。長らく昏睡状態にある日本を覚醒させることが僕の使命。自信ですか? 自信はありませんよ。自信とはブレるものですから。僕には確信しかありません」

 社長就任からの2年間、これまでのところは青写真通り。「よそ者」による変革は、3年目に突入する。(敬称略)

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