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» 2016年02月15日 07時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:世界一の「安全」を目指すボルボの戦略 (3/5)

[池田直渡,ITmedia]

シートの安全性能はもう一度注目されるべき

 要するに、設計する側がどう頑張っても、使う側の意識が向上しない限り、シートベルトの能力を完全に生かすことができない。ベルトをいかに正しい位置に掛けさせるかという問題は、実はシートの出来に大きく左右される。シートが座椅子のような作りで、どんな姿勢でも座れるというものであれば、ベルトが正しい位置に掛かる確率が下がる。

着座姿勢とベルトを掛ける位置は安全に大きく影響する 着座姿勢とベルトを掛ける位置は安全に大きく影響する

 シートには、ベルトが効果を発揮するように乗員の姿勢を整え、「滑り台とは逆に」座面が前上がりで、シート形状そのものに体が前へ滑り出す動きを止める役割が求められる。もちろん表皮の滑りなどもこれに関係してくる。

 これまでしつこく述べたように、体重にかかる加速度を支えられるのは腰骨である。しかし、腰を固定できたとしても、上体が動けば、腰を起点に上体が倒れ、頭部や胸部を打ち付けるリスクは残る。体重は原則的に腰骨で支えた上で、補助的に上体を拘束するのが肩ベルトの役割だ。衝突時のベルト巻き取り機構は、この上体の拘束にも効く。ベルトが緩んでいると一度動き出した体の勢いを止めなくてはならないが、最初からギッチリ拘束していれば、体の保持は楽になる。それはとりもなおさず鎖骨や頸椎(けいつい)などへの負担が減るということである。

 時折、「肩ベルトが首に食い込んで首吊り状態になるので危ない」という記述を見掛けるが、ボルボのエンジニアによれば、これはナンセンスで、肩ベルトが首元に接触していても、衝突時には肩ベルトの拘束の影響で体が回転する。右側座席であれば、体は頭上から見て時計回りに回る。よってベルトが首に食い込む現象は起こらない。これは統計上にもはっきり現れているそうである。首にベルトが当たることの問題は乗員の不快感だ。擦れて痛かったりすると、ベルトを脇の下に回してしまったりする。これではシートベルトの効果が発揮できないのだ。

 さて本題に戻ろう。キャビンに生存空間を作り、衝撃を分散して吸収し、体をうまく拘束したとしても、衝撃の大きさによってベルトが伸びたり、シート自体がたわんだりすることで、頭部や胸部がステアリングなどに接触する可能性は残る。ベルトの強度は人体の限界を超えるほど強くても意味はないので、一定以上の力が加わると、伸びることで衝撃を吸収し、人体を守るように作られているのである。

 そこで初めてエアバッグの出番だ。これはもう説明するまでもあるまい。現在ではステアリングだけでなく、サイドウインドーや膝下、場合に寄ってはシート前端を持ち上げるエアバッグなど、さまざまな仕組みが実用化されている。これに加えて衝突をさせない対策も取られている。いわゆる「ぶつからないブレーキ」や、ステアリングの「レーンキープアシスト」だ。

 こうした長きにわたる取り組みで、自動車事故における死亡原因の比率が変わってきた。かつては死傷原因における頭部と胸部の損傷が飛び抜けて高かったが、さまざまな対策が進んだことにより、これらについては一定の成果が見られ始めたのである。

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