なぜいま“昭和型”の喫茶店「コメダ珈琲店」が人気なのか新連載・高井尚之が探るヒットの裏側(1/2 ページ)

» 2016年02月26日 08時00分 公開
[高井尚之ITmedia]

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

日本実業出版社の編集者、花王の情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。

「カフェと日本人」(講談社現代新書)「セシルマクビー 感性の方程式」(日本実業出版社)「『解』は己の中にあり」(講談社)「なぜ『高くても売れる』のか」(文藝春秋)「日本カフェ興亡記」(日本経済新聞出版社)など著書多数。 E-Mail:takai.n.k2@gmail.com


 いつの間にか全国各地で、「コメダ珈琲店」の看板をよく見かけるようになった。東京都内も例外ではない。例えば2014年6月にはJRや地下鉄が乗り入れる中野駅近くの「丸井中野店」に出店し、2015年1月には池袋駅前の「池袋西武前店」にも出店した。

 丸井中野店がオープンする前のエピソードを紹介しよう。実は、同ビル近くには老舗競合チェーンの本社があるが、その競合にはテナントビル会社からの出店オファーが一切なく、名古屋市に本社があるコメダにオファーがきたのだ。

 大手出版社の編集者からはこんな声も聞いた。「コメダは名古屋で利用経験があったが、西武百貨店池袋店の前に出店したのを見たとき、『とうとう池袋にも来たか』と思いました」

 誰かと雑談していても、少し前は「コメダって知っている?」だったのが、最近は「コメダに行ったことある?」に変わってきたのだ。その人気を分析してみよう。

photo クロノワール(出典:コメダ珈琲公式webサイト)

看板商品「シロノワール」を、「クロノワール」で活性化

 毎年、さまざまな商戦が繰り広げられる2月14日の「バレンタインデー」――。近年はチョコレート以外のお菓子や雑貨などもそろい、昔とは違うイベントとなった感がある。

 コメダ珈琲店では、2016年2月1日より各地の店舗で「チョコ色に染まれ! コメダのチョコ祭り」を期間限定で開催した。クリームソーダなどソフトクリームを使ったメニューを、全てバニラソフトからチョコソフトに変えたのだ。「非常に好評で、バレンタインデーを待たずに販売終了となった店もありました」(同社)

 店の看板メニューは「シロノワール」というデニッシュパンにソフトクリームを載せた商品だ。1977年から販売しており、40年近い歴史を持つロングセラーブランドでもある。それが「チョコ祭り」では、チョコソフトの「クロノワール」となり話題を呼んだ。

 長年、昔ながらのレシピを守ってきたシロノワールだが、2014年から派生商品も出すようになった。最近では2015年10月1日から「Ringoノワール」が登場し、同年12月1日からは「チョコノワール」が2014年に続いて復活した。2016年は1月15日から「キャラノワール」が再登場し、それに続く限定商品が「クロノワール」だったのだ。

 さまざまな企業を取材して感じるのだが、自社の看板商品を変えることにおよび腰の社員は多い。「好調なのに変える理由が見当たらない」「特に問題もないから、このままでいいだろう」といった意見も耳にする。

 「新たなシロノワールを開発する際は、社内でも『失敗したらどうするのだ』といった反対意見もありましたが、あえて新鮮味を出そうと開発しました。実際にスタートするとお客さまからは好評の声が多く、ホッとしました」(開発部門の社員)

 どんな看板商品でも何らかの「新しさ」を打ち出さないと、やがて時代から取り残されてしまう。ロングセラーブランドで怖いのは、時代感覚がズレて「昔、お母さん(おばあちゃん)が愛用していた」と“過去の商品”になってしまうことだ。その意味で、シロノワールは人気のうちに変身できて話題性も高まった。今回も「夜遅かったからクロノワール(大)がなく、(小)しか食べられなくて残念」などブログで紹介する女性が目立った。

photo コメダ珈琲店
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