乙武氏に負けていない? 米国でも「5人と不倫」が大騒動に世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2016年03月31日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       

トランプを叩いてはいけない

 そしてトランプについてはどうか。不倫疑惑でクルーズが指摘した通り、トランプに対して『ナショナル・エンクアイラー』はやけに“静か”である。大統領選特集号でも、「ドナルド・トランプも秘密を隠している――彼は自分が認めている以上の支持と人気を得ている」と、わざとらしいくらい露骨に褒めている。要するに同紙はトランプ支持を隠そうとしていないのである。ここまで露骨にバランス感覚がないとジャーナリズムとしては論外だろうが、世の中からは「まあこういう新聞だから」と特に問題視されることはない。

 というよりも、実はこのスタンスから、今回の大統領選で特筆すべきある傾向が垣間見られる。同編集部は、同紙を買ってもらうためにはトランプを叩いてはいけない、と理解している。つまり、トランプ支持者には『ナショナル・エンクアイラー』を好んで読んでいるような人が多いということなのである。

 米ジュージタウン大学のダイアナ・オーエン准教授は、著書の中で同紙のメインな読者層を「高卒の中年で中産階級の白人女性」と分析している。これは「高卒の中産階級で中年の白人」(米ロサンゼルス・タイムズ紙)や「中年の中産階級で白人」(英ガーディアン紙)が多いと言われるトランプ支持者と合致する。

 基本的に『ナショナル・エンクアイラー』の売りは、ハリウッドセレブの私生活や、プライベート写真だ。整形に失敗したセレブや、整形しすぎて顔や体が崩れてきたセレブの情報は毎週のように掲載されている。読者層を知ると、なるほど、と思える。

 ちなみに大統領選特集と同じ号では、「ロジャー」という名のとんでもなく筋骨隆々なカンガルーの衝撃的な写真とエピソードが掲載されている。この「アーノルド・シュワルツネッガーもびっくり」のロジャーは、日課として他のカンガルーとスパーリングを行い、その腕力でオーストラリアの保護区域を支配しているというのだ。

 これもまた『ナショナル・エンクアイラー』でよく見る類の記事だ。トランプの過激な放言には「イェ?!」と叫び、カンガルー「ロジャー」のセクシーな肉体を見て、大笑いしながら「ヒュ?!」と声を上げる中年白人女性の姿が目に浮かぶ。ステレオタイプ過ぎるかもしれないが、これも米国でよく見るような風景であると言える。

 とにかく、「5人と不倫」のクルーズについて、来週また続報が掲載されることだろう。トランプ支持者だけでなく、全米メディアもいま『ナショナル・エンクアイラー』に注目している。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.