「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

年間生産180万本 それでも「吉田カバン」が職人の手作業にこだわる理由(2/3 ページ)

» 2016年04月01日 08時00分 公開
[高井尚之ITmedia]

全商品を日本国内で製作、職人とデザイナーが「1対1」で向き合う

 前述したように年間約180万本を生産する同社は、革製のボストンバッグから小物の財布やキーホルダーまで全商品が手作業で、かつ裁断・縫製から仕上げまで国内でつくられる正真正銘の日本製だ。

 実は、アパレル業界では「最後の縫製を行った場所」で国名を記すことができる。工程の大部分を中国や東南アジアでつくっても、最終段階を日本で行えば「日本製」となる。吉田カバンの商品を「正真正銘の日本製」と呼ぶのは、その意味だ。

 大規模工場での大量生産も行わない。創業以来、自社工場を持ったことがなく、製作は国内に約50カ所ある中小の工房が担い、吉田カバンの社員デザイナーと外部工房の職人が1対1の関係で向き合う。

 新商品では、企画デザイナーの仕様書のデザインをもとに職人が立体のカバンをつくる。最初に仕上げたものは「ファーストサンプル」と呼ばれ、それを耐久性や利便性などの点からデザイナーが細かい改良点を伝え修正してもらう。3回目の「サードサンプル」で完成することも多い。修正に際しては職人も技術的な意見を出して、一緒に使い勝手を考える真剣勝負の場だ。

 デザイナーの細かい注文に対応する職人は技術の幅も広がり、職人との仕事で経験を積んだデザイナーは、重要な役割を任されるようになる。例えば、デザイナー歴17年の細谷和人氏(同社企画部マネージャー)は、2013年に「タンカー30周年記念モデル」の企画開発を手掛けた。

 同氏が「お願いした仕事をずっとクオリティ高く完遂し、細かい部分で創意工夫いただくことに感服する」と話すのが、縫製職人の池田松郎氏(職人歴68年)、信一郎氏(同33年)、裕氏(同27年)親子だ。

 発売時から30数年にわたり「タンカー」製作に携わる、大ベテラン職人の池田氏は、同商品の縫製について次のように語る。

 「戦後間もない時代から仕事をしていますが、タンカーの素材を初めて見たときは驚きました。厚さ数ミリのポリエステル綿を挟んだ三層構造の生地は柔らかくて縫いにくい。しかも縫製距離が長いほど難しい。思案した末に、個々のパーツごとにゆがみ具合を調べて型紙をつくりました。この生地にはのりが効かないから縫製も大変です。ステッチも通常は1本のところを2本に補強するなど、職人として鍛えられました」(池田氏)

 同氏の工房に伺うと、いまでも型紙が吊るされている。ここ以外にも複数の国内工房で熟練職人が「タンカー」製作を担う。完成品に差が出ないよう指示書に沿って製作し、製作後は、各工房の責任者と吉田カバンの品質担当者がダブルチェックして「商品」となる。

photo 吉田カバンの直営店「クラチカヨシダ」(出典:同)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.