7.5兆円を奪うのはどこか?2016年、電力自由化“春の陣”

電力自由化で東ガスが圧勝する? その理由とは電力自由化特集(1/3 ページ)

» 2016年04月06日 08時00分 公開
[寺尾淳ITmedia]

“おいしい部分”だけ抜き取る東ガスの戦略

 2016年4月1日から小売が自由化された電力市場は全国で約7.5兆円といわれるが、そのおよそ3分の1の約2.6兆円は首都圏で占められる。そして、長年独占状態だった東京電力(東電)に挑戦する最強の対抗馬は東京ガス(東ガス)とみられている。

 既に東ガスは3月14日時点で、約11万8000件の契約を獲得した。これは東電の加入世帯(従量電灯A・B)約2000万件の0.6%程度にすぎないが、東電にしてみれば利益率が高い「おいしい部分」をもっていかれている危機感が強いはずだ。

 というのは、2月1日に改定した東ガスの電気料金体系は、東電にとって低コストで大きな料金収入が得られる「ファミリー」層を優遇するものになっているからである。例えば夫婦と子どもが一戸建てに住み、50A(アンペア)契約で月平均700KWh(キロワットアワー)を使う家庭の場合、月額料金は東電が2万114円、東ガス(ずっとも電気)がガスとのセット割引(270円)を差し引いて1万8121円となり、その差額は1993円で約1割も安い(税別で燃料費調整は考慮しない/東ガスの料金シミュレーションにより算出)。東ガスの提携先である通信7社の光回線とのセット契約なら、さらに月最大300円安くするサービスもある。

 この家庭の場合、1月に発表された東電の「新料金プラン」(2年縛り契約)にすれば5%割引になるが、それでも1万9108円で東ガスの方が安い。「この際、乗り換えようか」という動機づけには十分なメリットだ。

 一方、電力消費量が少ない単身世帯などの家庭では、東ガスに乗り換えてもメリットが非常に薄いケースがほとんど。例えば30A契約で月平均200KWhを使う世帯では、「東電、5134円」対「東ガス、5157円」になるので、乗り換えたら23円損してしまう。

 そんな世帯は東ガスにとって「乗り換えなくて結構です」という層。料金回収などのコストはファミリー層と同額かかっても料金収入ははるかに少なく「おいしくない」からである。大量に抱えてしまえば電力事業が「利益なき繁忙」に陥り、液化天然ガス(LNG)などの燃料費の変動次第では利益を出せなくなる恐れがある。そのため、その層を最初から排除できるよう、実に巧妙な料金体系をつくりあげているのだ。

photo 電気使用量が大きい程、東ガスの方が安くなる(出典:電力自由化総合メディア「エネスケが行く」より

 東ガスがおいしい部分だけきれいに抜き取り、東電に残るのはおいしくない部分ばかりになれば、東ガスは獲得したシェア以上の大勝利をおさめる。その結果は1〜2年後、両社の電力事業における利益率の変化に表れる。

 おいしくない部分に対しても東電には「供給責任」があり、たとえ赤字でもライフラインの電気を止めるわけにはいかない。

 東電の新料金プランの「おいしい部分の引き留め策」は今のところ不十分だ。「2年縛り」は携帯キャリアなら総務省からやめるように要請されており、夜間を安くする時間帯別料金は本当に得なのか分かりにくい。ポイントを付けても現金値引きには勝てないもの。実際は、東ガスの供給エリア外で電力とガスのセット割引きが使えない北関東などの地域で勝負するしかないだろう。

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