いま各社が動画配信ビジネスに夢中になるワケ西田宗千佳のニュース深堀り(2/4 ページ)

» 2016年04月14日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「第一のメディア」の座が危うくなったテレビ

 背景にあるのは、接触メディアが世代によって大きく変わってきており、若い層にとってはスマートフォン(もしくはPC)こそが第一の接触メディアになっている、ということだ。

 以下のグラフは、博報堂DYメディアパートナーズが毎年5月に発表している「メディア定点調査」によるものだ。これは、東京地域において、各世代の男女が1週間のうちに、どのメディアにどれだけ接触しているのかを示したもの。

photo 1週間、どのメディアに接触するかを調査したもの。年齢・性別による違いがはっきり分かる。(出典:博報堂DYメディアパートナーズ・2015年度の「メディア定点調査」より)

 これを見れば一目瞭然である。10代・20代においては、スマートフォンが圧倒的に接触時間が長い。可処分時間の長さから、メディア全体への接触量が多いことも重要なのだが、何より、テレビの接触時間が50代・60代に比べてグっと短くなっている点に注目してほしい。社会人となる20代では可処分時間が減り、仕事を含めPCに接触する時間が増えるのだが、スマートフォンへの接触時間は減らず、むしろテレビへの接触時間が減っている。

 もう一つ、テレビというメディアへの若年層の接触量低下を示すデータがある。次のグラフは、電子情報産業技術協会(JEITA)が公開している「民生用電子機器国内出荷統計」から、29型以下のテレビと37型以上のテレビに関して、出荷実績を抽出してみたものだ。

 最大のピークは2011年の地デジ移行であり、その後テレビの売れ行きが落ちている……というのはご存じの通りなのだが、重要なのは、青の「29型以下」とオレンジの「37型以上」差だ。37型以上のテレビはいわゆる大型テレビであり、家庭のリビングに置かれるもので、29型以下は各部屋に置かれる小型のものと考えていい。テレビというとリビングにあるものを思い浮かべるが、実際の販売数量では、より安価で小型なものの方が多い。実際、「地デジ移行特需」期まではそうだった。

 だが現在、大型テレビの販売数量は増えているが、小型のものは増えていない。4Kを中心に、リビングにある「メインのテレビ」は買い替えも含めた新しい需要がゆっくりと伸びてきているが、小型のテレビについては、販売数量が戻っていないのだ。

photo 青色が29型以下、オレンジ色が37型以上。個室向けテレビである小型の製品は需要が戻っていないことが分かる(出典:JEITA グラフは筆者が作成)

 これはすなわち、「個室におけるテレビの需要」が戻っていないことを指す。2000年代までは「各部屋に一台」の割合で増えてきたテレビだが、地デジ移行とスマートフォンの普及が同時にやってきた結果、「スマホで見るコンテンツで十分だ」「お金がかかるなら買い換えなくてもいい」とみなされたのではないか。結果、若い世代のテレビへの接触時間が減り、ますますテレビに魅力を感じなくなっていく……。

 これが、若者のテレビ離れの仕組みである。

 そもそも、スマートフォンはエンターテイメントのための機器であり、同時にコミュニケーションのための機器でもある。1つの機器でそれらの用途をカバーできるのであれば、日常の中での接触時間はどんどん長くなる。接触時間の長いメディアの中にコンテンツビジネスと、それに付随する広告ビジネスが入っていこうとするのは、当然のことといえる。

 2月にあるシンポジウムで同席した、BBCワールドワイド・アジア担当エクゼクティブバイスプレジデントのデビッド・ウィーランド氏は、筆者にこう話した。

 「英国でも他の国でも、10代はPCやスマートフォンで映像を見るようになっている。私の子供もそうだ。このあと、彼らが今まで通り放送を見てくれるとは思えない」

 BBCは番組のネット配信に積極的だが、「BBCの『B』がブロードキャストの意味ではなくなる日が来る」とコメントしている。スマートフォンがファーストメディアである世代がこのまま年齢を重ねていくならば、映像消費メディアとしての「放送」の価値も変化せざるを得ない。

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