「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

これぞ町工場の底力 廃業の危機を救った「おじいちゃんのノート」とは(3/4 ページ)

» 2016年04月19日 08時00分 公開
[鈴木亮平ITmedia]

たった数カ月で創業以来過去最高の売り上げに。本人は大パニック!

 すぐに特許を取得し、さまざまなところへ売り込みをかけたが、実は最初、思うようには売れなかった。もともと印刷会社である同社は販路を持っているわけではない。売ろうにも開発した“商品の良さ”をどう広めていいのか分からず苦戦したという。

 「展示会に出して、商品の良さを理解してくれた人は買ってくれるが、それで終わり。そこから広がらなかった」(中村さん)

 ノートの開発に成功してから2年が経ったが、売れない状態が続き、準備していた約8000冊のノートは在庫の山になってしまった。「会社の生き残りをかけて始めたオリジナルノートの企画・販売。これでダメなら廃業しようと考えていた」(中村さん)

 会社の体力は限界、もう廃業するしかない――。そのような状況で迎えた2016年の正月、事件が起こる。

 一緒にノートを開発していた元製本会社の男性は、遊びに来ていた孫娘に「特許も取得した良いノートなんだが、売れ残っちゃって……。友達に宣伝してくれないか」と少しでも在庫を減らすために宣伝をお願いしたという。

 すると、その孫がTwitterを使い、ノートの特徴を画像付きで説明したツイートを投稿。その結果、リツイート数があっという間に3万を超え、多くの人から「こんなノートが欲しかった」とコメントが寄せられたのだ。

 ツイートから数時間後、会社への注文も殺到。電話は鳴りっぱなしで、多くの人がノートを求めて会社(家)に押しかけてきたという。当時、中村さんは状況が理解できず、注文がきて嬉しいというよりもパニック状態だったと語る。

 「とにかく怖かったですね。電話線は引っこ抜き、誰も入れないようにカーテンを閉めて戸締りをしました。一体何が起こったのだという感じで、喜びよりも怒りの感情の方が強かった」(中村さん)

 結局、ノートへの注文はたった2〜3日で3万部を超えた。当時ほどではないが、今でも注文の電話は鳴り止まず、現在累計で20万部を超える注文がきているという。そのノートは手作業でしか作れないため、1日に800〜1000冊ほどしか生産できない。中村氏と従業員はいま、毎日午前4時前に起きて深夜までノート作りに追われているそうだ。それでも、不思議と体は疲れないと語る。

 「自分で企画した商品を多くの人から買ってもらえる。しかも、感謝の手紙が毎日届くんですよ。このような経験は今までありません。こんなに嬉しいことはありません」(中村さん)

photo 従業員が手作りで1日に1000冊を作る
photo 感謝の手紙が毎日のように届くという

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