漫画が売れたら終わりではない 敏腕編集者・佐渡島氏が描く『宇宙兄弟』の次「全力疾走」という病(3/5 ページ)

» 2016年04月20日 08時00分 公開
[香川誠ITmedia]

講談社をやめて作家エージェントを設立

 『宇宙兄弟』の人気が広がるにつれ、編集者である佐渡島の名前も広く知れ渡るようになった。2012年は実写映画の公開やテレビアニメの放送開始などが重なり“宇宙兄弟イヤー”でもあった。

 ところが、まさにその年に佐渡島は講談社を退職した。

 佐渡島が選んだ道は、「作家エージェント」という聞き慣れない職業への転身だった。しかもそれをフリーランスという形でなく、法人化して社員を雇いながらビジネスにしていく。『宇宙兄弟』に携わり続ける目的だけならフリーランスの編集者でも達成できるが、なぜ作家エージェントの会社を起業したのか。作家エージェントとはいったいどんな仕事なのか。

 作家エージェントというのは、出版社との交渉を請け負ったり、作家を育成したりと、基本的には本などを出版することを主目的としている。日本にも現在こうした会社は数社ある。しかし、コルクはそれらとは少し異なるという。

 「出版に限ったことばかりではなく、作家のファンクラブ運営やファンを集めのリアルイベントの開催など、作家が360度全方位で活躍できるための環境作りをします。今、日本では、出版社がその役を半ば担っている状態ですが、欧米では作家エージェントがいるのが一般的です。日本でもこのエージェント業が浸透すれば、業界も作者も読者も、皆ハッピーになれるんじゃないかと考えています。作家の人生は使い捨ての人生ではありません。一発当てて終わりではなく、30年、40年働くための環境を作ることが、我々の役割だと思っています」

 このビジネスにおいて鍵を握るのは、ほかのビジネス同様、「顧客にどのように届けるべきか」を考えることだと佐渡島は考えている。

 「本の物流において、本を顧客に届ける“ラスト1マイル”を持っているのは書店だと考えられていました。しかし、書店に足を運ぶ人が減っている中で、書店は来なくなった人たちに『書店に来てください』と呼び掛けるため術を持っていませんでした。つまり、書店は顧客を持っているように見えて、実は持っていなかったということです」

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