なぜ三菱自動車は不正に走ったのか 「技術屋の頑固さ」が落とし穴スピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2016年04月26日 12時50分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 三菱自動車の燃費データ不正問題で第三者委員会が設置され、いよいよ本格的な原因究明へむけた調査がスタートした。

 相川哲郎社長ら経営陣は、「当時の性能実験部長が『私が指示した』と言っている」と繰り返し説明したが、このようなダイナミックな不正を一個人の裁量だけで進められるのかという疑問があちこちのメディアから指摘されている。

 部長に詰め腹を切らせてウヤムヤにしようとしているのでは――。そんな「疑惑」も囁(ささや)かれる背景には、昨年あった部長級社員2人の諭旨退職がある。平成28年度に発売を予定していた新型SUVの開発が遅れていることを上司に報告していなかったことが発覚し、新型車の投入が遅れた「責任」をとらされたのである。

 こういう話を聞けば、誰でも「ミスを上に報告できない空気なんじゃないの」と思う。実際、今回の不正発覚後の21日に開かれた同社の企業倫理委員会でも、同様の指摘があったという。

 「風通しの悪さ」が今回の不正に結びついているか否かは、第三者委員会が明らかにしてくれるはずだが、三菱自動車が自分たちではどうすることもでないほど深刻な「セクショナリズム」に侵されていることだけは間違いないと思っている。

 根拠は、「不正」を明らかにした20日の記者会見だ。

 経営陣は「これから本格的な調査をしていく」を繰り返すのみで、積極的に情報開示をしなかったスタンスに、マスコミ各社は痛烈に批判していたが、個人的にはそこよりも注目したポイントがある。

 それは、社長への報告スピードだ。

eKワゴンの燃費がごまかされていた
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