なぜ三菱自動車は不正に走ったのか 「技術屋の頑固さ」が落とし穴スピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2016年04月26日 12時50分 公開
[窪田順生ITmedia]

「技術屋」という世界の「正義」に基づいて動く

 開発部門に「個」を尊重するカルチャーが強ければ、「組織」のルールを軽んじる空気、つまり不正に対する罪悪感のまひがあったというのは容易に想像できる。事実、かつてそのようなルールを破り、それを誇らしげに語っていた三菱自動車の技術屋がいる。

 なにを隠そう、相川社長だ。

 2014年に社長になった相川氏は、父・賢太郎氏が重工の会長、社長を歴任したピカピカの三菱サラブレッドだが、その一方で開発畑を歩んできた「技術屋」としても知られた。だから、新社長就任の際には、こんな職人気質がアピールされた。

 リコール隠し事件発覚後、「仲間のエンジニアが相次いで会社を去ったのはつらく悲しかった」と語るが、ダイムラー傘下で開発中の軽自動車「i(アイ)」に開発停止命令が下ったときは「開発コード」を変更してまで極秘裏に続行。誠実で偉ぶらない性格だが、iのボディーをベースにした世界初の量産電気自動車「i-MiEV」も「あのとき、中止していたら作れなかった」と、技術屋魂を燃やす頑固さもある。(PRESIDENT 2014年4月14日)

 カッコいいエピソードに仕立てあげられているが、これは冷静に考えれば「命令無視」だ。コードを変更してまで開発を続行したのも「隠蔽」ととれないことはない。

 「上」の命令に従わず、「技術屋」という世界の「正義」に基づいて動く。このようなカルチャーが燃費データの改ざんというユーザー目線の欠如した不正に走らせたことはないのか。

 NASA(アメリカ航空宇宙局)でかつて興味深い調査が行われた。現役の操縦士と副操縦士をフライトシミュレーターに乗せて、事故の可能性を知らせるシグナルを発してから、事故が起きるまで彼らがどのような行動をとるのかモニタリングしたのだ。

 そこで、誤った判断を下す確率が多いのは、「腕に覚えがある親分肌の操縦士」だったという。

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