この連載の重要なテーマは日本の自動車産業のゆくえである。クルマが売れる、売れないの話は、日本経済がもっと強くなるためにはどうしたらいいのかという視点で書いているつもりだ。当然それは企業だけが儲かればいいという話ではなく、国民全体が豊かで幸せになることへとつながっている。
もちろん読者の個人個人に同じ視点の持ち方を強要するつもりはないから、そこは自由に読んでいただいて構わない。ただ新車の売れ行きの話をすると非常に多く目にするコメントがあり、ちょっと気になっているのだ。
「新車なんて買えない。中古車で十分だ」
それは、日々生きていく中で、高いリアリティを持つ言葉だと思う。正直な話、筆者も個人的に同感なのだ。中古車で十分。というより、それがベターな選択肢だと思う。何よりもない袖は振れない。選択肢がないのだから仕方がない。
会社員として生きていくとしたら、毎年のベースアップが当たり前という時代はもう失われて久しいし、むしろ会社の業績いかんによっては給料が下がる心配をしなくてはならない。転職しようにも、給料が上がるのはどんどん限られた層のものになっている。今や給料が増えるどころか、何かあって会社を辞めざるを得ないとき、経験を生かした転職ができるだけでも恵まれた人だと言える。未来に対する安心材料はいっこうに増えていく気配がない。
「閉塞した状況を打破するためには起業しかない。アニマルスピリットを持ってチャンスをつかめ」という声は常にある。日本という国の活力や競争力を考えたとき、この国には起業家がまったく足りてないというのも事実である。だから起業して成功した人はヒーローのようにもてはやされていたりする。
しかし、実態としてその成功率がどんなものかと言えば、起業1年後の生存率が40%。5年後は15%。10年後は6%。20年後になるとわずか0.3%に過ぎないと言われている。実はこの数字、国税庁の2005年調査だということであちこちで引用されているが、元ソースがどうやっても見つからない。筆者も散々探したが、同じように困っている人が見つかるのみだ。しかしながら、税理士などの現場を見ている人たちの実感として概ね正しそうだという声もあるので、一応信用することにすると、起業した1年後には半分は敗者になっているし、10年後の生存率は1割を割り込む。この数字を見て起業に挑もうとするのは酔狂だ。
つまり、収入増をアテにした作戦はどうやっても立てられない。となれば、現実的な対応策は出費を減らす以外にない。企業経営でもそれは同じだ。売り上げアップや高付加価値化は常にミズモノで、成果が出るかどうかはやってみるまで分からない。やれば必ず成果が上がるのはコストダウン、つまり出費の抑制だ。企業も人も、お金を使わないことこそが最も確実な「負けない方法」なのである。だから出費を抑えるという意味で「中古を買うのは正しい」のだ。ギャンブル的要素もあるので、一概には言えないケースもあるが、それはまた別のテーマとして書くことにする。
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