英国のEU離脱を楽観視できるこれだけの理由新連載・加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)

» 2016年06月29日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

過剰な悲観論に陥る必要ない

 国民投票に関する事前の予想は、残留支持派が僅差で勝利するというものが多かった。市場は残留を織り込んだ形で推移し、国民投票の前日にはポンドが急上昇するなど、かなり楽観ムードだった。それだけに離脱のショックは大きく、メディアではリーマンショック級の危機というキーワードも飛び交っている。

 確かに、英国の離脱が世界経済や金融市場に与える影響は大きく、為替市場や株式市場では当面、混乱が続くだろう。日本企業も当然、そのあおりを受けることになる。だが、英国のEU離脱によって、日本を含む、各国の経済活動が危機的な状況に陥るのかというと話はまた別である。

photo 英国のEU離脱に悲観する必要はない?

 筆者が過剰な悲観論に陥る必要ないと主張する理由は以下の2つである。1つは、日本企業の英国市場との関わり方は企業によってそれぞれであるということ。もう1つは、EUと英国には交渉の余地が十分に残されていることである。

 まず企業に対する影響についてだが、どのように欧州市場や英国市場に関わるのかによって影響の度合いは変わってくる。最も影響が大きいのは、EU域内の広範囲にわたってサプライチェーンを構築している場合である。

 例えば、欧州を代表する航空機メーカーであるエアバスは、サプライヤーなどを含め、欧州各国に多数の拠点を保有しており、最新鋭機である「A350」の主翼を製造する工程だけでも数カ国にまたがっている。

 主翼下部については、スペインのマドリードにあるイジェスカス工場で、主翼上部についてはドイツ北部のシュターデ工場で製造されており、これらの部材は英国のブロートン工場に運ばれて組み立てが行われる。その後、ドイツの大都市ブレーメンで機器類を装着し、フランス南西部にあるトゥールーズ工場で最終的に航空機の姿になるという工程だ。

 このサプライチェーンの中で英国の果たす役割は大きく、もし英国とEUとの間に関税がかかるような状況となれば、A350のサプライチェーンは再構築を迫られることになるだろう。これは英国にとっても欧州にとっても痛手である。

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