東海道新幹線の新型車両「N700S」はリニア時代の布石杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2016年07月01日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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N700Sの真意は「東海道新幹線の未来」である

 標準車両のN700Sは、山陽・九州新幹線用の8両編成はもちろん、台湾新幹線用の12両編成も共通設計で導入できる。今後、新幹線を各国へ輸出するにあたり、さまざまな輸送量に対応できる。その点では、確かにJR東海が新幹線技術の海外展開を目指した表れと言える。

 しかし私は、N700Sの標準車両の意図は海外展開というよりも、将来の東海道新幹線・山陽新幹線の需要の変化に対応するという意義が大きいと思う。16両編成のN700Sは、かつての0系や100系のように編成を短縮できる。つまり、東海道新幹線を退いても、編成を短縮して山陽新幹線ローカル輸送用に延命し、山陽新幹線のコスト削減に貢献する。これが目的ではないか。

 さらにうがった見方をすると、JR東海がJR西日本の山陽新幹線のコスト削減だけを配慮するとは考えにくい。その意図は東海道新幹線にも適用されると考えたほうが自然だ。

 N700Sの営業運転開始は2020年度。東海道新幹線の車両の寿命が13〜15年とすれば、それまでに2027年のリニア中央新幹線の開業を迎える。このとき、東海道新幹線からリニア中央新幹線へと旅客需要の大移動が起きる。そして「東海道新幹線に16両編成は不要」という時代が来る。

 これまでは運用効率の面で16両編成を固持していたけれど、リニア開通以降の東海道新幹線は、列車の需要に応じて16両、12両、8両を使い分けたほうがいい。旅客需要を調整する場合、16両編成のまま運行本数を半分に減らすよりも、車両を半分の8両編成に減らして運行本数を維持したほうが便利だ。そのほうが東海道新幹線の価値を下げずに済む。

 しかし、今から東海道新幹線の編成短縮の話をすると景気が悪い。そこで、海外を見据えた前向きの印象を与えるために「国内外の新幹線の標準車両」とした。ただし、この「国内」はほかの地域の新幹線ではなく東海道新幹線そのものだ。JR東海にとって、N700Sは海外展開を見据えるだけではなく、東海道新幹線の変化に対応するための戦略的施策だと考えられる。

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