東京の「地下鉄一元化」の話はどこへいったのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2016年07月22日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

東京都の立場

 東京都は営団地下鉄の設立以前から「交通事業は公営事業として自治体が担うべき」という考え方を持っていた。路面電車は統合して東京市電(後の都電)とした。山手線内は都バスの路線がほとんどだ。地下鉄も同様にしたい。この考え方は大阪や名古屋も同様で、現在も自治体の交通事業のあり方の1つとなっている。

 しかし、既に民間の地下鉄が開通していた東京では、国の方針で帝都高速度交通営団が設立されてしまった。ただし、東京都(当時は東京市)も出資者である。資本金は国が最も多く、次に東京市、東京の大手私鉄のいくつかも出資した。

 東京都の地下鉄事業は1958年から始まる。東京の復興の勢いがつき、交通整備が急務となった。しかし帝都高速度交通営団だけでは資金が乏しく、当初の計画通りに進まなかった。そこで国の諮問機関の都市交通審議会が答申第1号をまとめ、東京都の地下鉄建設を認めた。現在の都営浅草線は、もともと営団地下鉄が免許を持っていて、東京都に譲った路線である。

 答申第1号はこのほかに「大手私鉄の都心延伸は相互乗り入れにより実施する」という方針を定めた。これで大手私鉄各社の都心乗り入れ免許は返上され、営団地下鉄または都営地下鉄との相互乗り入れが始まる。こうして東京の地下鉄は営団地下鉄と東京都の分担時代になって今日に至る。そして東京都は「いつか営団地下鉄も都営地下鉄に統合しよう」と考えている。なにしろ営団地下鉄の出資者、東京メトロの株主だ。

猪瀬前知事の「バカの壁」発言で話題になった東京メトロ半蔵門線と都営新宿線ホーム。ホームと改札階の壁が撤去された(出典:東京都交通局「東京の地下鉄のサービスの一体化に向けた取り組みについて」) 猪瀬前知事の「バカの壁」発言で話題になった東京メトロ半蔵門線と都営新宿線ホーム。ホームと改札階の壁が撤去された(出典:東京都交通局「東京の地下鉄のサービスの一体化に向けた取り組みについて」

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