開業100周年事業が始まった木次線の「試練」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2016年07月29日 06時45分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 ゲームアプリでもモンスターとして登場するヤマタノオロチ(八岐大蛇)は、日本の神話に登場する恐ろしい怪物だ。頭が8つ、尾も8本。その巨大な大蛇が毎年暴れ、山から人里に下りて若い娘を食べてしまう。その話を聞いたスサノオノミコトは、里に残った最後の娘、奇稲田姫(クシナダヒメ)を見初め、「この娘をくれるなら」という条件でヤマタノオロチを退治した。

 その後2人は須賀という地を訪れ、青空に立ちのぼる美しい雲を見て清々しく感じ、「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」と歌った。これが日本初の和歌とされ、出雲国の地名の由来である。八雲は出雲国の枕詞であり、ギリシャ出身の作家、小泉八雲の名の由来。岡山と出雲市を結ぶ特急列車の愛称にもなっている。東京と出雲市を結ぶ「サンライズ出雲」も人気列車である。

 伝説のヤマタノオロチは、この地を流れる斐伊川(ひいかわ)の氾濫という見方もある。この斐伊川沿いの鉄道路線が「木次線」だ。島根県の宍道湖湖畔の宍道駅と広島県の山中、備後落合を結ぶ81.9キロメートル。路線名の由来は主要駅の木次駅。かつて島根県木次町の中心であり、現在は周辺6町村が合併した雲南市の中心となっている。南側の山中、下久野駅から三井野原までは奥出雲町にある。宍道湖側は松江市、終点の備後落合は広島県庄原市だ。

木次線 出雲坂根駅はスイッチバックで有名 木次線 出雲坂根駅はスイッチバックで有名

 木次線は鉄道ファンにとってもよく知られている。出雲坂根駅付近の三段式スイッチバックを体験しに訪れる観光客は多いし、トロッコ列車「奥出雲おろち号」も走る。しかし、経営状態は芳しくない。

スイッチバック区間を登り切ると、おろちループという道路と赤い橋が見える。車窓の見どころの1つ。とぐろを巻いたヤマタノオロチが火を噴くイメージとのこと スイッチバック区間を登り切ると、おろちループという道路と赤い橋が見える。車窓の見どころの1つ。とぐろを巻いたヤマタノオロチが火を噴くイメージとのこと

 国土交通省が公開した2013年度の鉄道統計年鑑によると、木次線の1日1キロメートルあたりの利用人数は245人。JR西日本の路線では下から数えて3番目。JR旅客路線全体でも下から数えて6番目だ。路線の大整理を打ち出したJR北海道で最下位となる日高線は、JR全体では下から数えて10番目。1日1キロメートルあたりの利用人数は312人で、木次線はJR北海道の最も過疎な路線より少ない。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.