開業100周年事業が始まった木次線の「試練」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2016年07月29日 06時45分 公開
[杉山淳一ITmedia]

沿線の危機感が薄い木次線

 では、下から3番目の木次線はどうか。JR西日本から路線廃止に関する提案もない。JR西日本は1990年から「木次線鉄道部」という独立部門を設置した。ローカル線を地域に密着させた存在とし、活性化と合わせて効率化を推進する制度だ。他の鉄道部は地域単位。しかし木次鉄道部は唯一の路線単位の組織である。部長職は木次駅長が兼任する。これをJR西日本の配慮と好意的に受け止める人も多いかもしれない。

 いや、実際は鉄道に関心がない、クルマで十分という考えが大勢だろう。私が乗ってみたところ、出雲横田駅を境に利用客に隔たりがある。これも雲南市と奥出雲町の温度差につながっていそうだ。雲南市側は出雲大東駅に市立病院があり、宍道駅と木次駅の間は通学需要も多い。1両の中型気動車では立ち客も多い。

 この現状を見ると、「廃止されるにしても、木次駅あるいは出雲横田駅以南だろう」と楽観視しそうだ。それだけに奥出雲町側は危機感を募らせているはずだ。しかし、その危機感は雲南市も持つべきである。もしJR西日本が木次線と木次鉄道部廃止の方針を打ち出したら「はいそうですか。これからは皆マイカーにします」と言うわけにはいかない。少なくはない鉄道利用者数のために、公的な移動手段を手当てしなくてはいけない。

木次線名物のトロッコ列車「奥出雲おろち号」。100周年記念ヘッドマークを掲げている 木次線名物のトロッコ列車「奥出雲おろち号」。100周年記念ヘッドマークを掲げている

 観光客の窓口としての木次線の役割も見過ごせない。出雲大社、宍道湖、松江城下町という大きな観光地の陰に隠れているとは言え、雲南・奥出雲の斐伊川流域はヤマタノオロチ伝説の観光要素がある。

 地酒、地ワイン、地牛乳、地醤油、日本で初めて卵かけご飯用の醤油を売り出した地域だ。松江や大阪、広島、岡山から、ローカル線とグルメを楽しみに来る観光客も少なくない。出雲大社の観光など半日で足りる。さらに興味深い何かを求める旅行者に対して、鉄道がなくなれば入り口を失う。他の地域へ流れてしまう。

 木次線を第3セクターとして残すか、残すとすれば全線か一部区間か。いや、廃止されないように先手を打つべきか。そろそろ「起きるべき事態」を想定した準備が必要だ。しかし、昨年までは目立った動きはなかった。

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