「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2016年08月05日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

満員電車をゼロにする?

 小池氏は都知事選運動で「東京の満員電車をゼロにする。例えば、2階建て車両の導入とか」と語った。私はそれをテレビのニュースで一度だけ見たけれど、インターネットの情報によると、ほかの番組でも何回か語っていたようだ。小池氏の都知事選に向けた公式サイトにも、「満員電車をゼロへ。時差出勤、2階建通勤電車の導入促進」と明記されている。

都知事選に向けた小池氏のWebサイト 都知事選に向けた小池氏のWebサイト

 これを見て、ネットで鉄道ファンの失笑もあった。「東京の通勤事情に2階建てはそぐわない」。215系電車を引き合いに出し、「通勤電車に2階建ては無理」などだ。確かにすべての通勤電車を215系のような2階建てにはできない。しかし、小池氏の言う「2階建て」はこんな物ではない。電車だけではなく、ホームも2階建てにするアイデアだ。いわば、米国の貨物列車で実施しているコンテナの2段重ね「ダブルスタック」である。

 それを知らずに、215系の再来を予測して失笑するなんて小池氏に失礼だ。しかし、その一方で、私が鼻白んだことも事実である。なぜなら小池氏は「電車に乗らない人」なのだ。そんな人物が「満員電車をゼロにする」なんて言ったところで説得力がない。

215系方式とダブルスタック、違いは?

 215系はJR東日本が1992年に導入した電車だ。普通車8両、グリーン車2両の総2階建て。現在は東海道本線を中心として通勤時間帯に定員制の快速列車として運行している。朝の上りと夕方以降の下り列車だ。休日には行楽客向けの臨時列車として中央本線でも見掛ける。座席を増やし、原則として着席していただくという意図で設計された電車である。

 215系の仕様を簡単に言うと、現在東京近郊で運用されている「2階建てグリーン車」の構造だ。2階建てグリーン車は編成の中間に連結されているけれど、215系は10両すべて、先頭車も普通車も2階建てとなっている。側面の扉は車端部に2つ。乗車すると階段があり、1階席へは階段を降りる。2階席へは階段を上がる。この構造は乗降に時間がかかる。扉が少ない上に、通勤電車として導入すると、扉付近に乗客が固まり、車内中央までスムーズに移動できない。

 215系は普通車でも着席整理券という割り増し料金を取り、停車駅を減らし、快適に乗っていただくという趣旨の車両だ。ほかの通勤車両のように「片側4扉で座席を減らし、なるべく多くの乗客をさばく」という考え方ではない。215系を山手線や京浜東北線に入れたらホームは混雑、遅延が頻発。パニックになる。

総2階建ての電車「215系」 総2階建ての電車「215系」

 小池氏の想定するダブルスタック方式のアイデアは、交通コンサルタント会社・ライトレールの社長、阿部等氏が提案した。阿部氏は著書『満員電車がなくなる日』の中で、「電車もホームも2階建てとし、床面積を2倍にして混雑率を下げる」というアイデアを披露している。かなり奇抜だ。そして、本書の販売にあたり、「帯」という販促ツールに小池氏が登場している。小池氏は刊行前の原稿を読み、推薦文を書き、写真も載せている。

『満員電車がなくなる日 鉄道イノベーションが日本を救う』。帯に小池氏の推薦文がある(出典:ライトレールWebサイト) 『満員電車がなくなる日 鉄道イノベーションが日本を救う』。帯に小池氏の推薦文がある(出典:ライトレールWebサイト

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