ダブルスタック方式は混雑率低下の特効薬に見える。しかし、設備投資が膨大だ。電車の新開発は既存の車両入れ替えのタイミングで行う。製造コストは単純に2倍にはならないから、車両導入の負担は小さいだろう。しかし、プラットホームを2階建てにする、あるいは、電車の両側にプラットホームを設置し、それぞれを1階専用、2階専用とするには、すべての駅で改築が必要になる。駅構内で1階ホーム2階ホームの動線を分けるスペースも必要だ。電車の両側にホームを設置できるスペースも、ほとんどの駅にはない。
単純に電車の車体を2つ重ねると、架線やトンネルの高さ、立体交差の見直しも必要だ。既存の建築限界で実施すると、大江戸線など小型地下鉄なみに天井が低くなる。グリーン車ならともかく、普通車で乗車率が上がれば空調設備の増強も必要だ。機関車けん引タイプではなく電車にするなら、モーターや走行用機器を配置するために、いくつかの車両は1階を使えない。215系は10両中4両が2階のみ、バスで言うハイデッカーである。つまり、電車である限り、総2階建てにしても、輸送量は目論見通り2倍にならない。
そして決定的な問題として、1階と2階を完全に分離して運用できたとして、「非常時に2階の客はどのように脱出するか」という問題がある。ダブルスタック方式は新技術を使わないから、カネと時間があれば必ず実現できる。しかし「安全第一」を御旗に掲げる鉄道事業者にとって、非常口問題を解決しない限り、このアイデアは検討にも値しないだろう。
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