廃線危機から再生、「フェニックス田原町ライン」はなぜ成功したか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2016年08月19日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

開業ムードの後、冬に真価を問われる

 福井鉄道とえちぜん鉄道には、この時期に鉄道ファンの関心を集める要素がまだある。福井鉄道は駅前線を延伸してJR福井駅前広場に新駅を設置した。全国路線制覇を楽しむ乗り鉄にとって、この延伸区間と田原町駅の短い接続線は気になる区間だ。

 えちぜん鉄道は福井駅付近の高架化事業に関連して、前年9月から北陸新幹線用の高架線に仮駅を設置している。これも珍しい現象だ。過去には建設中の東海道新幹線の高架線で阪急電鉄京都線が走った事例があり、えちぜん鉄道は50年後に実現した2例目。新幹線の路盤で地方私鉄が営業する現象は注目されており、相互乗り入れ開始と合わせて訪れた鉄道ファンは多かったはずだ。

相互直通区間(出典:えちぜん鉄道報道資料) 相互直通区間(出典:えちぜん鉄道報道資料

 フェニックス田原町ラインに限らず、新規路線の成績は、開業時の賑わいが落ち着くまでは評価しづらい。それでも定期券利用者、回数券利用者の増加については「効果あり」と判定する材料になる。

 前掲の中国新聞の記事によると、福井鉄道沿線に住む高校生と大学生が、今までは田原町駅で降りて歩いていた。直通運転の開始によって、学校最寄り駅までえちぜん鉄道に直通して乗ってくれるようになった。えちぜん鉄道にとって1駅間でも乗客を獲得できた。回数券利用者増については記されていないけれど、福井鉄道沿線に大小の病院が多く、えちぜん鉄道沿線の人々が、通院手段をクルマから電車に切り替えたと考えられる。

 直通運転の効果として、沿線の人々の利用については微増かもしれないけれど、福井市の交通体系は進化した。現在のダイヤでは、相互直通運転は平日朝の通勤通学時間帯に2往復。日中は1時間あたり1往復を急行列車として運行する。福井駅前延伸とともに、これから訪れる積雪時期に真価を発揮するだろう。

3年後に10万人の利用者増を目標とする(出典:えちぜん鉄道報道資料) 3年後に10万人の利用者増を目標とする(出典:えちぜん鉄道報道資料

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