2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2016年08月26日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

最大のメリットは沿線開発と利用者への還元

 現在、大阪市営地下鉄の駅売店はポプラとファミリーマートに委託されている。ポプラは中央線の北側でテナント料は年間約1億6400万円、ファミリーマートは中央線の南側でテナント料は年間約2億5600万円だ。2012年にコンビニに切り替える前は、大阪市交通局の外郭団体「大阪メトロサービス」が一括契約しており、テナント料は年間約7000万円だった。テナントの切り替えで約5倍の収入になった。しかも利用者にとってサービスは大幅に向上した。

 駅ナカビジネスの取り組みも始まっている。2013年から御堂筋線天王寺駅、なんば駅、2014年から梅田駅で「ekimo」を展開している。東急不動産の商業施設運営と南海商事の小売事業による協業だ。事業の発表は2011年で、大阪市交通局の2011年度予算に組み込まれていた。予算案は2010年内に作成されているから、2013年の開業まで3年かかっている。新しい取り組みでも実現まで3年。これはスピーディとは言えない。民間会社なら、用地転用手続きや改装予算、事業者決定までもっと短い期間で実現できる。

大阪市営地下鉄の駅ナカ小売店「ekimo」(出典:東急不動産) 大阪市営地下鉄の駅ナカ小売店「ekimo」(出典:東急不動産

 これらの小売り事業は鉄道の付帯事業としてギリギリの範囲内だ。大阪市の運営でも可能である。しかし、民間企業になれば可能性は広がる。

 例えば、東京メトロはグループ企業でEchika、メトロピア、メトロエム、ベルビー赤坂などの商業施設を展開している。民営化の象徴的な物件としては2008年完成の青山エムズタワーがある。地上25階建ての高層ビルで、ホテル、住居、商業施設が入居している。敷地は営団地下鉄時代に作られた青山メトロ会館という福利厚生施設だった。民営化によって不動産、商業に積極的に進出できるようになり、福利厚生施設の土地に収益源の複合ビルが建った。ほかにゴルフ練習場も経営しており、事業範囲は地下から地上に広がっている。こうした事業が大阪地下鉄会社でも可能になる。

 このように、地下鉄会社が収益を得やすくなれば、利用者にも還元される。大阪市営地下鉄は初乗り運賃が200円で、他社より高い。しかし2014年に初乗り運賃の10円値下げを実施した。消費税増税を加味すれば、実質20円の値下げとなった。2015年には短距離区間の運賃区分を細分化し、一部区間でさらに値下げとなった。地域内の他社路線との競争力を高めたほか、値下げをきっかけに増収対策を検討している。

 その一例が最終電車の繰り下げだ。従来は保守時間の必要性から、他社に比べて最終電車が30〜40分も早かった。しかし、2013年から回送電車を営業化するなどの工夫で10〜30分の延長を実施した。民間企業になれば、乗務員のシフトの工夫、最新式の保守機材の導入などで、さらに改善できるかもしれない。

8路線で終電時刻を繰り下げた(出典:大阪市) 8路線で終電時刻を繰り下げた(出典:大阪市

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