米政府機関が注力するハリケーン進路予測、その精度やいかに?宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)

» 2016年09月02日 06時00分 公開

 ここ数週間、日本列島を台風が連続で襲ってきている。今週も大型台風10号が東北地方に上陸するなど、自然災害の猛威を身に染みて感じる日々だ。

 近年は温暖化やゲリラ豪雨など異常気象に対する注目が、日本のみならず、世界的に集まっている。そうした中、米国ではハリケーンによる被害軽減や、農業の高度化などのために気象関連のビッグデータを活用できないかという点に、大いに関心が高まっているのだ。

2005年、深刻な被害を米国にもたらしたハリケーン「カトリーナ」(出典:NASA) 2005年、深刻な被害を米国にもたらしたハリケーン「カトリーナ」(出典:NASA

ハリケーンによる経済損失は3000億ドル強

 日本の台風のように、米国において注目度が高い気象現象がハリケーンだ。2005年にミシシッピー州やルイジアナ州に甚大な被害を及ぼしたハリケーン「カトリーナ」、あるいは2012年に米東部に上陸したハリケーン「サンディ」のニュースが記憶にある読者も多いだろう。ハリケーンによる経済損失額は2004年から2012年までの累計で約3000億ドル(約30兆円)とも言われている。

 ハリケーンの進路・勢力予測に関しては、従来からさまざまな研究が行われてきたが、その中心的役割を担うのがNOAA(米海洋大気庁)だ。NOAAは海洋と大気に関する調査および研究を行う政府系機関であり、多数の衛星システムを運用し、気象情報を収集・蓄積している。政府系機関としてはNASA(米航空宇宙局)に次ぐ約2000億円の宇宙予算を運用している。

ハリケーンの進路をブロック単位で予測する

 ハリケーン予測に関する近年のトレンドは、ローカル単位での予測精度向上だ。NOAAでは竜巻発生やハリケーン進路を街のブロック単位で予測することを目指しており、衛星、航空機、気象バルーン、地上センサーの情報などを高度に統合し、水平分解能3キロメートルで予測できるモデルを2014年から本格運用している。

NOAA launches new tool to improve weather forecasts

 今年8月19日には、NASAが所有する無人航空機「グローバルホーク」で気象データを収集し、ハリケーンの進路や勢力予測精度を向上する計画を発表した。NOAAの気象衛星が取得したハリケーンの広域データと、NASAのドローンが収集する詳細な風速、湿度、気温データを組み合わせることで精度向上を目指すのが狙いだ。

 既に実績も出ている。2015年に熱帯暴風雨の「エリカ」が来た際には、グローバルホークからセンシングデバイスを嵐の中に落とし、そのデータを加味した場合と加味しない場合とで予測精度の差分を検証したところ、精度向上が見られたという。

 検討チームによると、「ハリケーンの予測能力に関しては、衛星データの向上、予測モデルの高精度化、コンピューティングの高速化により進歩しているものの、ハリケーンが急速に強まる仕組みについては理解を進める必要がある。予測精度の向上が人々の命や資産を守るのに役立つ」とコメントしている。

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