――ティーンがメインターゲットだと、マーケティングは難しくなりませんか?
植野: 『HiGH&LOW』に限らず、全てにおいてそうだと思うんですが、ティーンのもつ特性にフォーカスを当てていくんです。“衝動”や“カッコいいものやかわいいものが絶対という価値観”――そこに刺していくことが、絶対に必要だと思っています。
たくさんいるキャラクターが、みんなカッコよくて、みんなオシャレで、マネしたくなる。「こういう男の子と付き合いたい」「こういう男の子に囲まれたい」という気持ちや、「こういう男の子になりたい」「こういう男の子になって女の子にモテたい」という気持ちが、テンションの上がる音楽とともに総体になっているのが、『HiGH&LOW』という作品です。
今のテレビは、F2〜F3層といわれる30〜60代の女性が、視聴率を取る上で非常に重要になっています。もちろん人によって差がありますが、この層は“ちゃんとしたストーリー”で“ゆっくりしたスピード”のドラマを見ることに慣れている。そういう層には、『HiGH&LOW』は正直向かないですよね。説明もざっくりしているし、スピードも速すぎるし、まず登場人物が多すぎて覚えられないかもしれない。なんのために戦っているのかも明確じゃないし。
――琥珀さん(AKIRA)のために戦っているのかと思っていました。
植野: そうそう、それはそうです。そういうのを感覚的に理解する人は「仲間のために戦ってるんだね〜」と受け入れますが、頭で考える人だと「正義のため」とか「国のため」とか、明確になっていないと見にくい。多くの作品は二元論になっているので、善悪がはっきりしている方が見やすいんです。でも『HiGH&LOW』は全員主役なので、悪人は作っていない。
――唯一「家村会」が明確に悪いくらいですね。植野さんは『HiGH&LOW』のほかにも、『お兄ちゃん、ガチャ』(2015)や『黒崎くんの言いなりになんてならない』(テレビ版2015、映画版2016)といったティーンがメインターゲットとなる作品のプロデューサーをいくつも務めています。女子中高生のハートをつかむ作品を作る秘訣(ひけつ)はなんでしょうか。
植野: 僕が言うと恥ずかしいんだけど……“キュンとできるかどうか”ですね。僕は脚本を作るときや編集するときは、女の人の気持ちになるんですよ。女の人が見たときに、どこでテンションが上がるのかを、すごく考えます。
――植野さんは男性なのに、どうしてティーンのトキメキポイントとズレないんでしょうか?
植野: 中身が幼いのかな(笑)。ただ、仕事柄、10代の子と普通に話すことが多いのは大きいですね。誰と話すときも、あんまり話す内容は変わらない。いつも人に会うと「何が一番面白いの?」「何でテンション上がるの?」「どういう子が好き?」と聞いています。誰に対しても、興味があることを普通に聞いちゃうくせがありますね。
――それはずっと昔からですか?
植野: 昔っからかもしれません。あと、作品を考えているときに、2つの脳があるんですよね。1つは『HiGH&LOW』のように「自分たちがカッコいいと思っているものを提示する」という脳で、もう1つは「どういう風に一般層に広げていくのか」というマーケティング的な脳。女性を対象にしたコンテンツを企画するときは、後者の脳で作ります。だから初めから、周りにいる女性に聞くんですよ。
――テレビ業界には、女性がいっぱいいるんですか?
植野: いや、僕の周りに特に多いですね(笑)。女の人の手厳しい意見をよく聞きます。「かっこ悪い!」とか「全然面白くない!」とかを聞いて、撮りながらでも取り入れていきます。周りの意見を聞かないと、男っぽくてダサくなってしまう。みんなどんどん聞いていけばいいのにと思います。
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