京都府警の「犯罪予測システム」が使えない、これだけの理由世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)

» 2016年10月06日 07時32分 公開
[山田敏弘ITmedia]

米国では批判の声も

 この取り組みについて著者に解説してくれたある警察幹部は「テクノロジーを使って、交番を中心とした警察、警ら活動などをどうやって効率化するかという取り組みが日本でもやっと始まった」と期待を寄せていた。「過去何年か分の犯罪の発生率を全部データに入れている。時間帯や天気なども入れて、ビッグデータ処理をする。雨だとあの犯罪は減る、という具合に。そうすると、他よりも発生率が高いといったことが分かるようになり、管轄内にホットスポット(犯罪多発地域)が出てくる」

 日本では始まったばかりということで注目され、かなり期待されているようだ。

 では米国ではどうか。現在、全米にある大規模な警察署のトップ50うち、分かっているだけで20の警察が犯罪予測システムを導入している。さらに150の警察当局が導入を検討しているという。大都市のニューヨークやシカゴ、ロサンゼルス、シアトル、ヒューストン、アトランタなどはすでに導入しており、過去の記録をデータベース化して、いつどこで犯罪が起きるのかを予測して地図で示すようになっている。京都府警は2015年にロサンゼルスに視察を行っており、米国のシステムを参考にしているようだ。

 米国では犯罪予測についてどんな批判が出ているのか。

 まず予測データベースで使われる情報の信頼性が指摘されている。警察の収集する犯罪データが、実際に起きているすべての犯罪を反映しているとは言えないからだ。警察は起きている犯罪のすべてを把握しているわけではなく、米国の犯罪学専門家の中には、警察のデータはあまり正確でないと指摘する声もある。米司法省による2006〜2010年の調査で、暴力的犯罪の52%は警察に通報されていないことが判明している。また親族間など身内の窃盗事件では60%が、レイプや強盗、凶悪な暴行行為でも半数は通報されていないと言われる。

 また多くの犯罪者は犯行が見つからないように工作するものである。見つかっていない犯罪もかなりの数あると考えていい。そういう部分をシステムは識別や予測ができないだろうし、インプットされた過去の犯罪データで示される「犯罪地域」はかなり偏っている可能性があるのだ。

犯罪予測システムについて、米国では批判の声が多い(写真はイメージです)

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