京都府警の「犯罪予測システム」が使えない、これだけの理由世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2016年10月06日 07時32分 公開
[山田敏弘ITmedia]

起きるかどうか分からない犯罪を忠告される

 日本でも同じことが言えるかもしれない。警察がもっているデータは通報または警察に認知された犯罪のみになってしまう。通報されない犯罪は少なくないし、被害者も110番をするかしないかをいろいろな事情で躊躇(ちゅうちょ)したり、通報するほどでもないと考える場合もある。悪質ないじめといった傷害事案や暴行事件なども、死亡事件などになって初めて発覚する。つまり大事に至らないと日本では通報されないことも少なくない。

 例えば、横浜市神奈川区の病院で点滴を受けた入院患者2人が中毒死した連続殺人事件では、最初の死亡例は通報されなかったし、もしかしたらそれ以前にも同様の中毒死が見逃された可能性もある。当然のことながら、そうしたケースはデータに反映されないだろう。いくらデータベース化してアルゴリズムに頼っても、横浜のようなケースや、日本を震撼(しんかん)させるような散発的な凶悪犯罪は予測できないだろう。

 もっとも、京都府警の犯罪予測システムはそんな犯罪を「予知」するものではない。殺人事件などの予測をテーマにした映画『マイノリティ・リポート』のような世界とはかけ離れているのである。ひったくりや痴漢などが起きやすい場所や時間帯などを推測することなどが主な目的だからだ。

 米国では、こんな批判も出ている。米国には犯罪者や被害者といった「人」の予測すら行う警察もある。今米国で最も危険な都市のひとつだと言われるシカゴでは、犯罪を犯しそうな人や、犯罪の被害者になりそうな人を予測するシステムを導入している。前歴やギャングなどとの関係といった情報から割り出すようだが、当局者などが、実際にシステムでリストアップされた人たちの自宅を訪問して、名前がはじき出されたことを伝え、警告を与えたりするという。要するに、警察などから「近い将来、あなたは人を撃ち殺す可能性がある。監視してるからな」と、起きるかどうか分からない犯罪を忠告されるのである。

 米ランド研究所の研究者らは、このシカゴのシステムを研究してその有効性に疑問視する論文を発表し、最近大変な物議を醸している。米国でも民間企業と当局が手を組んで開発する場合が多い犯罪予測システムは、企業がその詳しいメカニズムを知的財産として明らかにしないために、予測メカニズムや妥当性などの徹底した研究が第三者的に行われていない。シカゴのシステムもしかりだ。

 米ディストリクト・オブ・コロンビア大学の法学部教授の研究では、導入の進む犯罪予測システムが「法的または政治的な説明責任をすっ飛ばしており、(大学や研究者などによる)学術的な詳細な調査からも逃げている」と指摘する。

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