ここまで否定的なことばかり述べてきたが、もちろん、SNSなどで写真をシェアすることは決して悪いばかりではない。公開やシェアの範囲などを確認しながら写真や動画を共有することで、なかなか会えない身内や友人、遠方にいる家族などと子供のつながりを保つことができる。要は使い方、ということだろう。
ここまで見てきたように、オーストリアのケースはさまざまな議論に発展しているが、週刊誌『Die ganze Woche』の記事が報じられた後に、この「18歳が訴えを起こした」というニュース自体が実はすべて捏造(ねつぞう)だったのではないかとの疑惑が噴出した。別のメディアが取材に動いてみると、弁護士のコメントや裁判の予定に矛盾が生じていることが分かったためだ。
すると、そんな疑惑を吹き飛ばすかのような記事が9月20日、同誌に掲載された。その記事によれば、娘の子供時代の写真の削除を拒み続けていた父親が、自分たちのケースが国際的に大きな騒動になっていることを知り、恐れをなし、写真の削除に応じたというのだ。しかも記事には、後ろ姿だが18歳女性だと思われる写真も掲載されている。
結局、よく分からないまま、この裁判と騒動は消滅した。何とも中途半端な幕切れだ。だが改めて「子供の写真問題」について考えさせてくれたことには、意味があったと言えるかもしれない。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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