日産ノート e-POWERの狙いはリーフの緊急救援池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2016年11月07日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

ポスト・スマートグリッド

 ノート e-POWERは、こうしたインフラ状況に対応するための日産の方針転換が形になったものだと言える。電気自動車を基本に据えながら、エンジンを発電機として用いることで、エンジン+モーターの2種類の駆動動力源を持つ従来型ハイブリッドとは違う選択肢を提示したのである。

モーターとエンジンの2つの動力源を持つという意味ではこれもハイブリッドだが、エンジンを駆動用に使わず、完全に発電専用に使うのが、e-POWERの特徴 モーターとエンジンの2つの動力源を持つという意味ではこれもハイブリッドだが、エンジンを駆動用に使わず、完全に発電専用に使うのが、e-POWERの特徴

 もちろん再度原発が稼働となったときに、これまで投資してきたスマートグリッド対応費用が水の泡にならないよう、両方を慎重に進めていくのだろう。しかし、現状にっちもさっちもいかなくなっているスマートグリッドに対して、e-POWERがメインの位置付けになってくるのは仕方がない。

 ただし正直なところ、e-POWERは間に合わせのシステムに見える。と言うのも、今までとは違う特性が求められる発電用のエンジンに、従来から駆動用に用いられてきたエンジン、HR12DEを流用しているからだ。

 自動車用のエンジンは、実はエンジンの常識からすると使われ方がおかしい。船や飛行機の世界では、エンジンは、通常、最も効率の良い回転数に固定して運転され、速度を変える機能は変速機が受け持つ。プロペラ機で言えば、プロペラのピッチを変えることで速度を変えるのだ。

 しかしながら、クルマとオートバイはエンジンの回転数を変えることで車両の速度をコントロールする。そのためエンジンに万能性が求められるのだ。アイドリングから最高回転数まで、負荷も交えてさまざまな条件で運転され、その全ての領域で安定した性能を発揮し、良好な排気ガス性能も求められる。

 電子制御が進む現在、過渡域のコントロールは、プログラムの緻密な制御に依存しており、昨今のエンジン開発ではここに極めて大きな工数が掛かっている。要するに単純化すれば、いろいろな性能を求められるから開発費がたくさん掛かるということだ。

 しかし、これを単純に発電に使うのであれば、そんなに幅広い運転域での性能は必要はない。というより、むしろ決まった定格運転でのみ高効率であることが求められる。2000回転なら2000回転で良好な燃費を示し、排ガスをクリアできればそれで良いのだ。

 優秀な過渡特性はいらないし、回転の上がり下がりもないのだから、シンプルで軽量に作ることができる。従来の過剰要求に応えるHRエンジンは、定格発電用にはオーバークオリティなのだ。単純な話、HRエンジンは4気筒のQGエンジンの後継として1気筒分レスシリンダー化した3気筒で登場したが、定格運転しかしないなら2気筒でも振動のコントロールは可能だろう。

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