日産と三菱にシナジー効果はあるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2016年06月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 三菱自動車の燃費データ不正問題はその問題の大きさから三菱の存続にかかわると思われたが、急転直下、日産からの2370億円もの資本的救済という形で一応の決着を見た。

 事態が予定通りに進ちょくすれば、日産は三菱自動車の株式の3分の1を越える34%を有する最大株主になり、資本を通して一定のガバナンスを期待できる立場となる。株主総会の特別議決を単独で支配して取締役の解任や合併などの重要決議をするには3分の2が必要で、裏返せば日産が3分の1を越える株式を持っている以上、特別議決権を行使できる存在は現れないという理屈だ。

 もちろん51%以上を持って普通議決権を有する状態とは違うが、少なくとも拒否権を備え、一定の支配力を持つことは間違いない。つまりこうした権利を確保するために三菱自動車株の時価で34%を算出した結果が2370億円ということだ。

 日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏と三菱自動車の益子修会長が揃って行われたアライアンス発表の記者会見では、アライアンス後も、日産と三菱はそれぞれ独立したブランドであり、日産は株主の立場に過ぎないと強調された。

日産自動車のカルロス・ゴーンCEO 日産自動車のカルロス・ゴーンCEO

 三菱全体を日産に飲み込むことはしないし、生産拠点や販売拠点についてもつまみ食いして日産側に組み入れるようなこともしない。それはルノーと日産の15年を超える対等なパートナーシップによって証明されているという。

電撃アライアンスの仕掛け

 今回のアライアンスでは、日産、あるいはそのCEOであるゴーン氏の鮮やかな手腕が光ったと評されている。ルノー・日産アライアンスのグローバル販売台数は853万台。これに三菱自動車の122万台を加えると、限りなく1000万台に近づく。単純な足し算とすれば、現在トヨタ、フォルクスワーゲン、GMが争うトップ集団に一気に追いつくことが可能になる。

日産自動車の横浜本社 日産自動車の横浜本社

 今回のアライアンスは誰がどう見ても、助けた側と助けられた側という構造である。普通に考えて三菱自動車は、今まさに燃えさかっている最中で、「助けてくれ」と言える相手は極限られている。日産側は今後の軽自動車の供給をどうするかという問題が発生するものの、切実度は三菱とは桁が違う。沈思黙考して判断できる立場である。34%という比率も恐らく日産側の要求だろう。状況に乗じて、買い手有利なタイミングでアライアンスに持ち込んだことを指してゴーン氏のさすがの手並みと言うわけである。

 今回のアライアンスのメリットについて、記者会見でゴーン氏がどう語ったかと言えば、このアライアンスは両社が大きなシナジー効果を上げる「win-win」の関係であり、短期的な三菱の救済だけではなく、将来を見据えた戦略的なアライアンスとして価値があるとのことだった。三菱に十分再生可能なポテンシャルがあると見立てての発言である。

 2020年代の自動車産業を考えれば、1台に5億ドルもの費用がかかるプラットフォームの開発や、自動運転、電気自動車などの先端技術開発のコストが、三菱の規模では負担しきれなくなる。三菱に比べればはるかに大きい日産であっても、共用化によるコスト低減効果は大きい。

 そうした背景によって長期的なアライアンスについては2011年に日産と三菱が各50%を出資して作った軽自動車専業メーカー「NMKV社」の設立以来、ゴーン氏と益子氏の間で長らく温められてきた懸案でもあり、それが今回の一件で一気に加速したと言うのが両氏の説明だった。

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