「なにわ筋線」の開通で特急「ラピート」と「はるか」が統合される?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2016年11月11日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

JR西日本は「関空特急を南海経由に」したい?

 なにわ筋線に関する一連の報道で、読売新聞の10月29日付『大阪縦走「なにわ筋線」、JR・南海で共同運行』(関連リンク)に興味深い記述があった。

将来は南海本線にJR西の車両を乗り入れる案も浮上しており、共通車両の開発も視野に入れる。JR西にとっては、JR阪和線より南海本線を利用するほうが関空までの距離が短く所要時間を短縮できるほか、阪和線のダイヤ緩和の利点もある。

 JR西日本は、南海電鉄の新大阪乗り入れを提案するだけではなく、自社の特急「はるか」の南海電鉄乗り入れ案も検討しているようだ。うがった見方をすれば、これは関空アクセス特急について、JR西日本の敗北宣言とも受け取れる。関空輸送は南海線のほうが早いとライバルが持ち上げている。しかし、JR西日本にとっては「阪和線のダイヤ緩和」のメリットが重要だと言う。この案が出た背景を考えてみたい。

 大阪中心部と関港の鉄道アクセスは、JR西日本が「はるか」を運行し、南海電鉄が特急「ラピート」を運行する。両社は路線が並行し、りんくうタウン駅で合流後、関西空港駅までは複線を共用する。実質的にライバル関係にある。ただし「はるか」と「ラピート」は経由路線や運行区間が異なるから、完全に競合しているとは言えないかもしれない。関東で例えると、JR東日本の「成田エクスプレス」、京成電鉄「スカイライナー」のような関係だ。

南海電鉄の特急「ラピート」 南海電鉄の特急「ラピート」

 「はるか」の長所は、京都発着・新大阪経由だ。海外旅行者を人気観光地の京都と直結できる。新幹線利用者の関空利用も便利だ。1日30往復のうち2本は米原発着とし、滋賀県と関空も結ぶ。一方で短所を挙げるなら、線路の配置の都合上、大阪駅を通れない。その代わりに天王寺駅に停車する。

 「ラピート」の長所は、大阪中心部の難波駅発着だ。難波駅は地下鉄や大手私鉄と連絡するため、大阪都心から使いやすい。料金も「はるか」より安い。JR西日本の「はるか」の近似区間を天王寺〜関西空港とすると、2230円(通常期指定席)、1710円(自由席)。ラピートは1430円(指定席)。短所は所要時間だ。「はるか」は30分〜40分、「ラピート」は35分〜41分。

 運行本数はどちらも約30分間隔だ。「はるか」は1日30往復、「ラピート」は32往復。所要時間も運行区間も異なるから単純比較はできない。まとめると、広範囲から利用できる「はるか」、運賃が安い「ラピート」となる。このほか、JR西日本も南海も料金不要の列車を運行している。JR西日本は関空快速を運行する。こちらは天王寺発着で、大阪環状線を一周し、天王寺に戻ってから阪和線に入る。南海電鉄は空港急行が走っている。

「はるか」「ラピート」のルート 「はるか」「ラピート」のルート

 ここまでの話で、所要時間の矛盾に気付いただろうか。読売新聞の記事で「JR西日本より南海経由のほうが距離が短く所要時間を短縮できる」と記述しているけれど、実際には「はるか」より「ラピート」のほうが遅い。しかしどちらも正解だ。1994年に登場した「ラピート」は、難波と関西空港をノンストップで、29分で結んでいた。しかし、その後のダイヤ改正で途中停車駅を増やしたため、所要時間が増えている。つまり「本気で走れば南海経由のほうが早い」というわけだ。

 「はるか」は、南海経由でスピードアップできる。南海電鉄はラピートを新大阪に接続できる。お互いにメリットがあるから共同運行しよう、という案があるようだ。

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