JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2016年11月25日 06時45分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 11月18日、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区について」という文書を発表した。

 相次ぐ事故によってJR北海道の体質が問題となり、安全に運行するためのコストが経営を圧迫し、赤字路線どころか鉄道そのものを支えられない。まるで国鉄の累積赤字問題の再来のようだ。全国紙、地方紙の社説を見ても、国が関与すべきという意見が増えている。

 JR北海道の報道については地元紙の北海道新聞の独壇場であった。しかし、今回の発表は全国紙などが国土交通大臣のコメントを求めるなど、ようやく国の問題として意見するメディアが増えてきた。しかし、その認識には誤解と偏見、向き合うべき問題との隔たりも感じる。

JR北海道の路線図。黒と緑が単独維持可能、青は北海道新幹線。その他の色は単独維持が困難という(出典:JR北海道報道資料) JR北海道の路線図。黒と緑が単独維持可能、青は北海道新幹線。その他の色は単独維持が困難という(出典:JR北海道報道資料

 何より国土交通大臣が国の問題として考えていない。これが一番の問題だ。11月18日付けの産経新聞は見出しで「JR北海道が維持困難な区間、『国も参画し検討』と石井国交相」(関連リンク)と掲げ、いかにも国が事態収拾に動くかのような期待を抱かせた。

 確かに記事の冒頭では、石井啓一国交相の会見から「国も道庁と連携しながら協議に参画し」と国の関与をほのめかしている。しかし、記事の結びは「JR北海道と自治体の円滑な協議を促す役割を果たす考えを示した」だ。

 何だ。関与とはただの立会人ではないか。当事者意識のかけらもない。産経新聞の姉妹紙、Sanke.Bizは翌日の記事で「(大臣は)当事者はJR北海道と地元関係者だとする考えを示した」(関連リンク)とハッキリ書いている。

 実は、国交省は地方交通において鉄道をアテにしていない。過疎地域の人々の移動手段はコミュニティーバスや乗り合いタクシーが最適とし、「交通政策白書」にも明確に示されている。交通政策白書は2013年に成立した交通政策基本法第14条に基づき、2014年から毎年まとめられ、国会に提出される文書だ。これが国の考え方である。

 持続可能な地域交通体系を作り、国民すべての交通権を保障する上では、低コストな交通手段が必要だ。そこに鉄道はそぐわない。住民が1000人程度の村に鉄道は過剰な装置だ。例えば、都内のタワーマンションだって2棟、3棟でそのくらいの人口になる。その住民たちが、最寄りの鉄道駅からうちのマンションに支線を作ってくれ、と言ったら、何とわがままな連中だ、となるだろう。

 しかし、これはあくまでも地域交通の話だ。都市間を結ぶ幹線交通は国策であり、沿線人口を基準にしてはいけない。私は鉄道信奉者だけど、どうしても鉄道を残せとは言わない。もし国策として「幹線交通も鉄道は不要」という判断があるなら、幹線交通として全国に片側3車線の高速道路を整備するとか、うち1車線は自動運転のバスやトラック専用にするくらいの明確な姿勢を示すべきだ。

 国土の幹線交通網を鉄道主体にするか、道路主体にするか。あるいはすみ分けていくか。現在の交通政策には軸がない。放置しすぎだ。基本を決めるべき人たちが決めてくれないことには動きようがない。JR北海道問題は幹線鉄道の存廃にまで浸潤している。これはもう国家の物流政策の問題だ。当事者は国である。この国の交通政策のリーダーは一体誰だ。

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