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「クレカがあるのに現金払い」 日本人の支払い行動を激変させた、Visaの戦略とは?利用者「180万人増」(1/3 ページ)

» 2025年12月11日 12時40分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 キャッシュレス決済には“壁”があった。カードは持っているし、利用できる店も多い。それなのになぜか、現金で支払う……。そこには「習慣の壁」がある。

 「2025年、日本のキャッシュレスは明らかに変わった」――。ビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下、Visa)のシータン・キトニー社長はそう断言する。

 タッチ決済の普及率は対面決済の6割に達したが、真の転換点は「公共交通」だった。札幌、福岡、東京で改札がタッチ決済に対応し、44都道府県190事業者が導入を表明。改札をタッチ決済で通り抜ける行動が、コンビニやレストランでの買い物習慣まで変えてしまったのだ。

 Visaはこの「習慣の壁」を打ち破るために、2024年4月、大阪で実証実験を開始。その結果、わずか1年半で大阪府内のタッチ決済利用者は180万人以上増加し、普及率は全国平均を大きく上回る74%に到達した。

 この大きな成功の鍵は、3つの施策の組み合わせだった。

 2026年2月、Visaはその成功モデルを「タッチ決済全国キャッシュレス推進プロジェクト」として日本全国に広げていく。

「移動」のタッチ決済が転換点に 消費者の決済行動が変わったワケ

 2025年、日本の公共交通機関でタッチ決済の導入が一気に加速した。Visaによれば、6月時点で170社以上だった導入事業者数は、年末までに44都道府県で190社以上に拡大。札幌市営地下鉄では49駅全てで、福岡市営地下鉄では全線で対応が始まった。都営地下鉄も導入駅を拡大し、小田急グループは箱根ロープウェイから江ノ電まで全線で展開する。

 世界全体では1000以上の公共交通事業者がタッチ決済を導入しているが、「そのかなりの割合が日本にある」とキトニー氏は語る。単一市場での「Tap to Ride」(タッチ乗車)展開としては世界最大級だ。

 なぜVisaは公共交通にこれほど注力するのか。答えはデータにある。

 大阪と福岡で過去12カ月間、タッチ決済利用者の行動を追跡調査した結果、公共交通機関でタッチ決済を使い始めた利用者は、使わない利用者と比較して、最初の3カ月間で取引回数が13%多く、消費額も12%多かった。この差は一時的なものではない。利用開始から6カ月後でも取引回数は8%多く、消費額は7%多い状態が続いている。

 影響は交通機関内にとどまらない。カテゴリー全体で見ると、タッチ決済を交通で使い始めた利用者は、最初の3カ月で取引回数が16%多く、消費額は8%多い。つまり、改札でカードをタッチする習慣が、コンビニ、レストラン、ドラッグストアでの支払い行動まで変えているのだ。

交通機関でのタッチ決済利用をする人は、コンビニ、レストラン、ドラッグストアでの支払いでもタッチ決済を使う割合、さらに消費額が大きい(提供:ビザ・ワールドワイド・ジャパン)

 実際、日常的な支出カテゴリーでタッチ決済は急速に浸透している。コンビニエンスストアでのタッチ決済の利用比率は90%に達し、飲食店では約80%、ドラッグストアで70%、スーパーマーケットで約60%となった。

 「交通機関でのタッチ決済は、通勤をスムーズにするだけでなく、Visaカードを日常の買い物で使う習慣を形成する」とキトニー氏は説明する。移動という最も頻度の高い日常行動を押さえることで、消費行動全体を変える──これがVisaの戦略だった。

主要なカテゴリーでのタッチ決済の成長(提供:ビザ・ワールドワイド・ジャパン)
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