キャッシュレス決済には“壁”があった。カードは持っているし、利用できる店も多い。それなのになぜか、現金で支払う……。そこには「習慣の壁」がある。
「2025年、日本のキャッシュレスは明らかに変わった」――。ビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下、Visa)のシータン・キトニー社長はそう断言する。
タッチ決済の普及率は対面決済の6割に達したが、真の転換点は「公共交通」だった。札幌、福岡、東京で改札がタッチ決済に対応し、44都道府県190事業者が導入を表明。改札をタッチ決済で通り抜ける行動が、コンビニやレストランでの買い物習慣まで変えてしまったのだ。
Visaはこの「習慣の壁」を打ち破るために、2024年4月、大阪で実証実験を開始。その結果、わずか1年半で大阪府内のタッチ決済利用者は180万人以上増加し、普及率は全国平均を大きく上回る74%に到達した。
この大きな成功の鍵は、3つの施策の組み合わせだった。
2026年2月、Visaはその成功モデルを「タッチ決済全国キャッシュレス推進プロジェクト」として日本全国に広げていく。
2025年、日本の公共交通機関でタッチ決済の導入が一気に加速した。Visaによれば、6月時点で170社以上だった導入事業者数は、年末までに44都道府県で190社以上に拡大。札幌市営地下鉄では49駅全てで、福岡市営地下鉄では全線で対応が始まった。都営地下鉄も導入駅を拡大し、小田急グループは箱根ロープウェイから江ノ電まで全線で展開する。
世界全体では1000以上の公共交通事業者がタッチ決済を導入しているが、「そのかなりの割合が日本にある」とキトニー氏は語る。単一市場での「Tap to Ride」(タッチ乗車)展開としては世界最大級だ。
なぜVisaは公共交通にこれほど注力するのか。答えはデータにある。
大阪と福岡で過去12カ月間、タッチ決済利用者の行動を追跡調査した結果、公共交通機関でタッチ決済を使い始めた利用者は、使わない利用者と比較して、最初の3カ月間で取引回数が13%多く、消費額も12%多かった。この差は一時的なものではない。利用開始から6カ月後でも取引回数は8%多く、消費額は7%多い状態が続いている。
影響は交通機関内にとどまらない。カテゴリー全体で見ると、タッチ決済を交通で使い始めた利用者は、最初の3カ月で取引回数が16%多く、消費額は8%多い。つまり、改札でカードをタッチする習慣が、コンビニ、レストラン、ドラッグストアでの支払い行動まで変えているのだ。
実際、日常的な支出カテゴリーでタッチ決済は急速に浸透している。コンビニエンスストアでのタッチ決済の利用比率は90%に達し、飲食店では約80%、ドラッグストアで70%、スーパーマーケットで約60%となった。
「交通機関でのタッチ決済は、通勤をスムーズにするだけでなく、Visaカードを日常の買い物で使う習慣を形成する」とキトニー氏は説明する。移動という最も頻度の高い日常行動を押さえることで、消費行動全体を変える──これがVisaの戦略だった。
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