野村證券が資産「5億円以上」の超富裕層に特化したサービス展開を進める中、1億円から3億円程度の資産を持つ富裕層が金融業界で「あぶれ」た状態となっている。この空白地帯を狙い撃ちするのが、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)とSBIホールディングスの連合だ。両社は2026年、合弁会社を設立し「Olive Infinite(オリーブ インフィニット)」というデジタル富裕層向けサービスを開始する。証券取引でポイント還元するという「逆ザヤ」も辞さない戦略で、これまで手薄だった新興富裕層の開拓に乗り出した。
夫婦ともに「年収700万円」超 SMBC×SBI新会社は、なぜ“新興富裕層”に目を付けたのか?
野村など大手が超富裕層に特化する中、中間層向け富裕層ビジネスが新たな主戦場として浮上。金融各社の競争が激化し始めた。
この競争激化の背景にあるのが、金利復活による金融業界の構造変化だ。マイナス金利政策の終了により、各金融機関は預金獲得に向けたインセンティブが大幅に高まった。金利のある環境では、預金を集めることが収益拡大の前提となるためだ。
ただし、預金獲得において法人と個人では性質が根本的に異なる。法人預金はメインバンクに偏りがちで、簡単に他の金融機関に移すものではない。一方、個人預金はサービス次第で獲得が可能だ。
しかし、金利競争やキャンペーンはダイレクトに体力を削る。そのため金融機関にとってのベストシナリオは、金利水準を他行と横並びにしながら、コンサルティングなどの新サービスで差別化し、預金を獲得することだ。富裕層向けサービスは、この文脈で単なる付加価値ではなく、預金獲得のための重要な差別化要素として位置付けられている。
こうした環境変化と並行して、従来の富裕層ビジネスでも大きな変化が起きている。これまで野村證券や大和証券、メガバンク系証券会社は、超富裕層を中心に資産1億円程度の富裕層まで幅広くカバーしていた。1億円未満の顧客層については、楽天証券やSBI証券などのネット証券がシンプルな資産形成サービスを、地方銀行や地場証券会社が対面型の資産運用アドバイスを提供するというすみ分けが定着していた。
しかし近年、大手各社は利益率向上を優先し、対象顧客の資産規模を大幅に引き上げている。野村證券では現在「5億円ないと対面のアドバイザーはつかない」状況となり、「2億、3億円ぐらいだと相手にしなくて、コールセンター対応になる」(関係者)という徹底ぶりだ。
金融ビジネスの基盤となるプラットフォーム開発を手掛ける日本資産運用基盤の大原啓一社長は「改めて富裕層ビジネスが注目されているのは、どんどんサービスがコモディティ化していく中で、もうからなくなってきたところにポイントがある」と分析する。
この戦略転換の背景には深刻な人材不足がある。元三菱UFJ銀行でプライベートバンク業務に携わった山田忠廣氏(日本資産運用基盤 マネジャー)は「本当の超富裕層を担当できるプライベートバンカー(※)はそんなに簡単に育たないし、数も少ない」と指摘する。野村総研の調査では富裕層世帯は着実に増加を続けているが、対応できる経験豊富な金融マンは急には育たない。そのため各社は限られた人材をより収益性の高い超富裕層に集中投下せざるを得ない状況だ。
※プライベートバンカー:富裕層の資産の総合コンサルティングを行う
野村総研による富裕層の分類(2023年)。近年の株式相場上昇を受け、運用資産が急増して富裕層となった「いつの間にか富裕層」が富裕層以上の世帯の1〜2割程度を占める。年齢は40代後半から50代の一般会社員が多く、従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用を通じて1億円を超えたケースが目立つ。年齢層が若くデジタルと親和性があり、相続財産ではないという点で従来の富裕層と大きく異なる(出所:野村総研の調査)この結果、1億円から3億円程度の資産を持つ富裕層が「空白地帯」に置かれることになった。特に地方では「資産数億円の人たちが全くどこからも相手にされていない。大手証券会社の支店の手数料稼ぎの対象にされている人たちがかなりいる」(山田氏)状況が生まれている。
夫婦ともに「年収700万円」超 SMBC×SBI新会社は、なぜ“新興富裕層”に目を付けたのか?
NTT・楽天・ソフトバンクが「金融三国志」開戦か──通信会社の新戦局、勝負の行方は?
DXの“押し付け”がハラスメントに!? クレディセゾンのデジタル人材育成を成功に導いた「三層構造」とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング