この空白地帯で特に注目されているのが「デジタル富裕層」という新たな顧客層だ。Olive Infiniteを担当する三井住友カード マーケティング本部長の伊藤亮佑執行役員によると、これは「年齢、年収、資産総額で語るのはなかなか難しい」が、「デジタルへの親和性があること。もう一つは、全部セルフではなくて人に相談したいというニーズがある」層を指す。
典型例として「共働きの現役世代で、一定の収入もあり、資産も積み上がっている。お忙しいので、対面よりもデジタルの方がいい」層を挙げる。また「10年勤めた会社を辞めて退職金が何千万円か入った」「独立した」「若いうちに相続した」など、大きなお金が動くタイミングで「自分一人で決断することに不安を感じる」人たちも想定している。
山田氏は富裕層の属性変化について「従来の日本の富裕層と違う属性の富裕層が現れてきている」と指摘する。「代々お金持ちで、資産承継を重視する人たち」に対し、「スタートアップ経営者や、株・資産運用で財を成した人たち」という新興勢力が台頭。さらに若年層には20代、30代で数億〜数十億円の資産を持つ「YouTube長者、暗号資産長者」といった今までにない富裕層が広がっている。
山田忠廣(日本資産運用基盤 マネジャー)。一橋大学商学部卒。三菱UFJ銀行、バークレイズ・ウェルス・サービシズ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券等で、プライベートバンカーとして超富裕層のお客様を担当。その後、富山銀行にて執行役員としてプライベートバンキング事業の立上げに従事。2025年6月より日本資産運用基盤へ参画この新興富裕層は従来の富裕層と2つの点で異なる。第一に、資産を「守る」ことよりも「増やす」ことに関心が高い。第二に、対面でのサービスを必ずしも求めない。「いちいち人と会うのがもう面倒くさい」(山田氏)が、セルフサービスだけでは不安という微妙なバランスがデジタル富裕層向けサービスの核心といえる。
重要なのは、こうした富裕層が求めるコンサルティングは株の推奨といった運用アドバイスではないことだ。大原氏はスタートアップ経営者でもある自身の体験から「将来の節税に向けた資産管理会社の設立のサポートなどが具体例」と説明する。例えば信託銀行から、「今のままだと相続時に妻が相続税◯億円を払わなければならないが、現金がないため株式を売却せざるを得ない。しかし事前に資産管理会社を作って株式を移しておけば、相続税の負担を軽減できる」といった提案を受けた経験があるという。
こうした相続対策や資産管理会社の設立は、金融機関からするとパッケージ化しやすいサービスだが、顧客側からするとかなり複雑で面倒だ。そして多くの富裕層にニーズがあるという特徴がある。大原氏は「自分で行うのは大変でスペシャル感はあるが、カスタマイズはおそらくあまりされていなくて、デジタルに親和性が高い領域だ」と分析する。
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