通信大手による金融事業への本格参入が新たな局面を迎えている。
NTTが住信SBIネット銀行の買収を軸としたSBIホールディングスとの資本業務提携を発表し、ソフトバンクは三井住友カードとの包括提携でキャッシュレス最大手連合を形成。一方、楽天は独自の経済圏構築を貫く。
外部との連携でスピードを重視するか、自前主義で一貫性を追求するか。3社3様の戦略で臨む金融市場での勝負の行方に注目が集まる。
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NTTが5月29日に発表したSBIホールディングスとの資本業務提携は、通信業界の金融参入戦略を一変させる規模となった。NTTはSBIホールディングスの第三者割当増資を引き受け約1100億円を出資。同時にNTTドコモは約2336億円を投じ、住信SBIネット銀行の株式65.81%を取得する公開買付を開始し、2025年第3四半期以降に連結子会社化する。
「帯に短し襷(たすき)に長しと言うが、今回は帯にもなるし、襷にもなるベストなソリューション」。NTTの島田明社長は住信SBIネット銀行について、こう評価した。
従来、銀行参入には店舗やATMなど重い設備投資が必要だったが、「デジタルの銀行機能をけん引してきた会社との連携で、われわれが求めていた機能を全て手に入れることができる」(NTTドコモの前田義晃社長)という。
提携の狙いは明確だ。1億485万契約を誇るdポイントをはじめとするドコモの顧客基盤と、SBIグループが持つ顧客基盤(口座数や各グループ企業の顧客数を合計し、約5442万人)を組み合わせることで、銀行・証券・保険のフルバンキング(金融サービス全般の提供)を一気に構築する。前田社長は「スマートフォン1つで貯金、決済、投資、保険、融資、ポイントに至るまでまとめて便利に利用できるようになる」と述べ、金融サービスの包括提供を目指す考えを示した。
SBIホールディングスの北尾吉孝会長は「新たな銀証連携サービスを提供していく必要がある」と強調。両社の経営資源を合わせた協業で「ものすごいシナジーが生み出される」と期待を込めた。
一方で、ソフトバンクとPayPay、SMBCグループは、キャッシュレス決済で国内最大手同士の「大連立」を実現した。PayPayの6900万ユーザーと三井住友カードの3900万会員を結ぶ包括提携で、述べ人数では国内最大規模のポイント経済圏が誕生する。
参考記事:三井住友カードとPayPay「対立から大連立へ」 キャッシュレス後半戦、決済データ起点のビジネス創出へ
提携の核となるのは3つの施策だ。
まずPayPayアプリで三井住友カードを優遇する。PayPayカード以外では三井住友カードのみが手数料なしでPayPayにひも付けできる。「三井住友カードはPayPayと最も相性の良いカードになる」と三井住友カードの大西幸彦社長は説明する。
2つ目が「Ollive」へのPayPay標準搭載だ。三井住友銀行の総合金融アプリOliveでPayPay残高の確認や資金移動が可能になり、フレキシブルペイ(クレジット・デビット・ポイント払いを1枚のカードで切り替えられる決済機能)の支払いモードにPayPay残高払いを追加する。「PayPayは世界中のVisa加盟店で支払い可能な決済手段になる」(大西社長)という。
3つ目がVポイントとPayPayポイントの相互交換。「Vポイント利用者約9000万人とPayPayポイント利用者延べ2億9000万人が、ポイントを相互交換しながら日頃の暮らしにお役立ていただく」とPayPayの中山一郎社長は語った。
技術面ではソフトバンクの最先端AI技術を活用し、三井住友カードのコンタクトセンターに24時間365日対応のAIオペレーターを導入する。ソフトバンクの宮川潤一社長は「日本で最初にAIエージェントを導入したコールセンターになる」と自信を見せる。
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