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NTT・楽天・ソフトバンクが「金融三国志」開戦か──通信会社の新戦局、勝負の行方は?(2/3 ページ)

» 2025年06月03日 06時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

【楽天】「独自経済圏」で対抗 “ワンストップ”貫く

 こうした連携戦略とは対照的に、楽天は一貫して自前主義を貫いている。楽天銀行、楽天証券、楽天カード、楽天ペイ、楽天生命保険と金融サービスを自社グループ内で完結させ、「楽天経済圏」と呼ばれる独自のエコシステムを構築してきた。

 楽天の強みは、EC、旅行、通信、金融まで幅広いサービスを一気通貫で提供できる点にある。利用者は楽天市場での買い物から楽天モバイルの通信料金、楽天銀行での資産運用まで、全てのサービスで楽天ポイントをため、使うことができる。この「ワンストップ」でのサービス提供により、顧客の囲い込みと利用頻度の向上を実現している。

写真はイメージ、ゲッティイメージズ

 楽天の金融事業は着実に成長を続けている。楽天銀行は預金残高が10兆円を超え、楽天証券は口座数1200万を突破した。楽天カードの発行枚数は3320枚を超え、ショッピング取引高は24兆円に上るなど、各分野でネット専業としてはトップクラスの地位を確立している。

 三木谷浩史会長兼社長は「楽天は単なる小売業ではなく、テクノロジー企業」と位置付け、AI技術やデータ分析を駆使した金融サービスの高度化を進める。外部との大型提携に頼らず、自社の技術力とサービス品質の向上で競争力を維持する戦略だ。

「連携派Vs.独自路線」 異なる戦略も、各社それぞれに課題……

 このように通信大手の金融参入により、各グループが銀行、証券、カードの主要ラインアップをそろえる構図が完成した。

 NTTグループは今回の住信SBIネット銀行買収で銀行機能を獲得し、既存のマネックス証券、dカードと合わせて金融3分野がそろう。ソフトバンクグループはPayPay銀行、PayPay証券、PayPayカードに加えPayPayほけんで4分野をカバー。楽天グループは楽天銀行、楽天証券、楽天カードに加え保険分野でも充実している。KDDIグループもauじぶん銀行、au PAYカードで主要分野をカバーしている。

大手通信4社の金融事業比較(筆者作成)

 一方で、ブランディング戦略には大きな違いがある。ソフトバンク系の「PayPay○○」、楽天系の「楽天○○」、KDDI系の「au○○」は統一されたブランド名で顧客にとって分かりやすい。しかしNTTグループは「dカード」「マネックス証券」「住信SBIネット銀行」とブランド名がバラバラだ。マネックス証券を買収してから約2年が経つが、サービス連携は、dカードによる積立投資やdポイント連携などにとどまり、ブランドの統一化にも至っていない。

 各社の戦略にも温度差がある。

 NTTはdカードゴールドで大成功を収めたものの、その他の金融サービスの取り込みには苦戦してきた。今回も慎重な統合を進める可能性が高い。背景には住信SBIネット銀行の既存サービスが統合により停止することへの、SBI側の不安感がある。住信SBIネット銀行の円山法昭社長は「既存のパートナーや事業に顧客に影響を与えてはいけない」と再三念押しし、SBI証券との提携関係は基本的に維持すると確認している。

 ソフトバンク×三井住友の提携も、表面的には強固に見えるが実態は複雑だ。SMBCグループは前のめりの姿勢を見せるが、PayPay側のメリットは限定的で、中山一郎社長も「エクスクルーシブ性(独占性)はない」と述べるなど一歩引いた構えを見せる。今後、どこまで踏み込んだ提携が実現するかは未知数だ。

 自前主義の楽天は、各サービスの連携が最も進んでいる。楽天市場での買い物から楽天モバイルの料金、楽天銀行での資産運用まで、全てが楽天ポイントでつながる仕組みが完成している。

 ただし金融系は強固である一方、グループ全体では楽天モバイルに注力しており、金融で稼いだ資金をモバイル事業につぎ込む構図だ。金融分野でグループ全体として攻めに出るというよりは、キャッシュマシーンとしての位置付けが現状となっている。

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