クレディセゾンが、経済産業省の「DX銘柄」に3年連続で選出された。2019年に立ち上げた同社の内製開発チーム「テクノロジーセンター」は、スマホアプリの内製化から始まり、現在は基幹システムの開発まで手掛けるようになった。外販も開始しており、今後5年間で150億円の新たな売り上げを見込んでいるという。
テクノロジーセンターはわずか3人で始まった。現在200人規模にまで成長。その成長の鍵は、経験豊富なエンジニアの採用だけでなく、未経験者の積極的な登用にあるという。
昨今は人材獲得に苦戦する企業が多く、文系人材をリスキリングなどで育成し、デジタル人材に育てようとする動きが活発化している。そんな中、クレディセゾンCDOの小野和俊氏は「『トランスフォーメーションハラスメント』には要注意だ」と警鐘を鳴らす。
「トランスフォーメーションハラスメント」とはどんなものなのか。DX時代の人材育成の本質とは何か。クレディセゾンの成功事例からひも解いていこう。
テクノロジーセンター設立当初、小野氏はキャリア採用を中心としたメンバーの確保に奔走した。その背景には3つの理由があった。
「1つ目は、エンジニア育成の難しさです。私自身ずっとエンジニアなので実感していますが、本当に重要なアーキテクチャの判断ができるようになるには、研修を受けただけでは難しい。本気で育てると、10年はかかってしまいます」
2つ目の理由で、小野氏は「トランスフォーメーションハラスメント」を挙げた。
「テクノロジーセンターは、柔軟性を重視し、スピード感を持って業務に取り組むのが特徴。一種スタートアップのような空気感のある組織にしたかった。そんな中で、(安定性を重視する)既存のIT部門の方々に『今日からスタートアップ的に働いて』と言うのは、私は『トランスフォーメーションハラスメント』(以下、トラハラ)だと思うんです」
他にも、最近はDX推進を目的にCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)を設置する企業が増え、バックオフィス出身の人材が選出されることも多い。しかし、管理・保守面に強みを持つメンバーに、突然DXを推進し、イノベーションを起こしていけ、と言っても無理があるのではないだろうか。
小野氏はこのような、これまでのキャリアと大きく変わる、適性を考慮しない人材配置はトラハラではないか? と話す。
「情報システム部門の方々は、新入社員の時から『絶対に迷惑を掛けるな』『一番やってはいけないのは障害だ』と叩き込まれています。そこに急に『イノベーションを起こして』『失敗を恐れるな』と言うのは、真逆の要求です」
3つ目の理由は、組織文化への配慮だ。
「既存のやり方を変えようとすると、どうしても『今までのやり方は古い』『令和の時代はアジャイルですよ』などと否定から入ってしまう。でも、これまでのやり方にも合理性はある。そこのリスペクトは、絶対に必要なんです」
だからこそ、小野氏は今までのやり方は一切否定しない、新組織の立ち上げというアプローチを選んだ。
「『違うやり方も試してみませんか』と小さく始める。実践してみせて、向いているところ、向いていないところを実例で示す。誰も否定せず、トラハラもせずに改革できると思っています」
こうした考えのもと、小野氏は自身のブログで人材募集を開始した。20年間書き続けてきたブログが、思わぬ形で採用の武器になったと小野氏は振り返る。
「(前編で話した)心理的安全性の話も、HRTの原則も、バイモーダルも、10年以上前からブログを通じてずっと発信してきたことです。事業会社でスタートアップ的なやり方を試しながら、今までのものも否定せずにリスペクトしてやっていく。そんなリアルな発信を見て、『面白そう』と連絡してくれた人が多かったですね」
「エンジニアは特に、期待値と現実のギャップを嫌います。長年ブログで発信してきたことで、私たちの考え方や組織の実態が伝わっていた。強みだけでなく、課題や苦手な部分も含めて理解した上で応募してくれる。そういう透明性のある採用が実現できたと思っています」
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