設立から3年が経った頃、テクノロジーセンターは新たな挑戦を始めた。社内公募による未経験者の採用だ。
「未経験採用では、兼務ではなく専任にこだわりました。なぜなら、兼務だと本籍の部署が忙しくなるからです。例えば3月の決算期には『今期中の案件があるから、プログラミングの勉強なんてしている場合じゃない』となってしまいますよね」
実際に募集を開始すると、予想を大きく上回る応募があった。毎回倍率は3倍を超え、年齢、職種、勤務地ともに、多様なメンバーが手を挙げた。
この人気の背景には、テクノロジーセンターの独特な文化があった。前編で紹介したように、部署を越えて活躍している姿が、社内でも評判になっていたのだ。
「テクノロジーセンターは、『頼まれなくても提案する』文化です。年齢や組織、役職に関係なく自由に発言し、行動する。そんな私たちの姿を見て、『自分もチャレンジしてみたい』と思う方がたくさんいたのはうれしかったですね」
もちろん、やみくもに未経験者を集めているわけではない。小野氏は、未経験者にしかない“強み”に着目していた。「リスキリング人材には、プロのエンジニアにはないかけがえのない強みがあります。それは『業務知識』と『人脈』の2つです」
「彼らは各事業部での実務経験があり、業務の本質を理解しています。そして、社内で築いてきた信頼関係がある。その長年かけて培った人間関係が、技術と現場をつなぐ架け橋になると考えています」
例えば、事業部向けのシステム開発を進める中で疑問点が生じた際、該当の事業部出身のメンバーが対応にあたった。実際に元同僚たちに直接話を聞きに行ったところ、互いに慣れ親しんだ間柄だったため、普段はなかなか引き出せない事業部側の本音や要望を引き出すことができたという。
「実際、多くの企業で起きているんです。技術的に素晴らしいものを作っても『欲しかったのはこれじゃない』と言われる。外部のエンジニアが技術用語を並べて要件を聞いても、現場の本音はなかなか出てきません。でもリスキリング人材がいれば、こうしたミスマッチを防げる。これは外部採用では得られない、社内育成でしか生まれない価値です」
現場体験の重要性は、小野氏自身の経験からも裏付けられる。
「コールセンター向けシステムの開発時、新人オペレーターの方にお願いして、実際の業務を体験させてもらいました。『クレジットカードの再発行は比較的簡単な問い合わせですよ』と教えてもらい、実際にオペレーター席に座ってみました」
そこで見えてきたのは、実際に使ってみないと気付きづらい、既存システムの使いづらさだった。
「例えば、お客さまから『この手続きに必要な書類は?』と聞かれても、システム上で答えを探せない。オペレーターは仕方なく、Googleで検索して回答していました。それを見て、『Google検索のような機能をシステムに組み込めば、オペレーターの負担が大幅に減るんじゃないか』と思ったんです」
このアイデアをプロトタイプにして担当部署に見せたところ、現場からとても好評だったと振り返った。
「文書にまとめられた情報だけでは、こうした現場の実態は絶対に分からない。体験することで初めて、本当に必要な解決策が見えてくるんです」
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